C434話
freeze
……いくら半ば騙し打ちとは言え、約束しちまったもんは仕方ねえ。
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「ところで聞くんだが、作りたいカクテルとかあんのか?」
「えっ!?……お酒じゃないやつなら……あ!カッコよく作れるやつがいいです!」
「格好良く、って言われてもなあ……シェイカーでも振ってりゃそれらしいか?」
「たしかに!」
「味とかはこっちで適当に考えるからな」
「はい!アキさんが美味しいと言ってたお店の方なんで信用してます!」
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……なんか物言いに引っ掛かるもんはあるが、まあいい。
シンデレラとレッド・プッシー・キャットあたりにしておくか。
道具は……落とされて歪むのも癪だし安物でいいだろ。
材料と道具をカウンターへ置いていき、質問をもう一方に投げる。
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「で、お前はあんのかよ?」
「僕はハンター・カクテルとフォールン・エンジェルかな」
「本気か?随分と度数高いもん選ぶな……人にやるんだろ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、むしろ試飲する僕達の方を心配した方が良いと思うよ」
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酒に強い奴なんだな……店内で潰れたりしなきゃ構わねえけど。
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「……ところでいい加減帽子脱げよ」
「いやぁ、それはちょっと困るかなぁ。だって僕の頭には秘密があるからね」
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なんだ、若ハゲか?
まあ、色々あるのかも知れねえし深入りはしないでおくが。
カクテルのレシピをもう一度思い返し、ひとつを除いてシェイクが入るカクテルである事を確認。
俺の分と二人の分、計三つのシェイカーのボディに氷水を詰めて、カウンターに置く。
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「で、ストレーナー、トップと嵌めていくんだが……シェイクする前に必ずこのトップは一度開けろ」
「へぇ、タイミングは?」
「俺はトップごと嵌めてから一度外すが……まあ、ひとつずつ嵌めた方が間違いはねえな」
「……それって、開けないとどうなるんですか?」
「圧力で外れるからマジで一度開けろ。やらかしやがったら掃除させるからな」
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一ヶ月ほど前の営業中、疲れていたのか外すのを忘れて崩壊させて客前で酒まみれになった事を思い出して苦い顔になる。
あんなにお笑い草になったのは姉貴が大袈裟に心配してきたからであって、俺のせいじゃねえからな!
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「で、適当に振ればいいって事かい?」
「んな訳無えだろ。シェイカーの底に氷をぶつけずに回すようなイメージで、振るとこういう音が……」
「カッコいい!」
「なるほど、そんな音がするんだね」
「いや……見てないでお前らもやるんだよ」
「はい!こうですか?」
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……必死にシェイクする姿といい持ち方といい、出来ているとは言い難い。
氷だってガツガツとシェイカーの底に当たる音がする。
だからと言って、初めての奴に求め過ぎるのも酷だろう。
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「……まあ、初めてにしちゃ良いんじゃねえか?」
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シェイクしてればそれなりにバーテンダーっぽい動きには嫌でもなるだろうし、妥協していく。
隣を見ると……音こそ微妙だが、フォームに随分と余裕がある。
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「何だよ、以前やってた事でもあんのか?」
「ちゃんと教わるのは初めてだけど」
「自己流か」
「自己流ともちょっと違うけど……お酒を提供してくれる酒屋で、店主の彼が酔っ払った時に見せてくれたんだ」
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酒を提供する側が酔っ払ってどうすんだよ、それまともにシェイク出来ねえだろ。それとも酒に弱いのか?
何だかんだで教える羽目にはなったが、二人分の世話は忙しいが意外と楽しいもんだな。
br
「ユウヒさん!この次は何をするんですか?」
「ちょっと待ってろ、シェイカー拭いてやるから……おい、姉貴も見てるだけじゃなくて手伝えよ」
「ほら、私は接客しかやれる事ないから」
「んなこたねえだろ、片付けだって立派な手伝いだ」
「それに、ユウヒが一人で教えてた方が楽しいんじゃない?」
「……」
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そのやけに生暖かい視線をこっちに向けんな!
ちくしょう、俺の事理解してやがって。