C425話

Last-modified: Wed, 22 Jun 2022 21:51:30 JST (696d)
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「ハニー、また来てね❤️」

「またのお越しをお待ちしています」

 

最後の客が、また来るよーアサヒさーん!と叫びながら道を曲がったのを確認して、その場にしゃがみこむ。

 

「ああー……疲れた……」

「ユウヒ、今日は本当にお疲れ様」

 

予約なしの団体客複数はしんど過ぎる。

姉貴もよくあんな大量のオーダーを覚えてられるよな……混乱し過ぎて、何度か姉貴に順番を聞いてしまった。

 

「そのまま休んでていいよ」

 

そう言って立て看板をしまおうと、持ち上げる姉貴。

 

「あー……それ、一度消さないと次に書く時消えねえから……」

「え……何それ、めんどくさ……」

 

持ち上げた看板をわざわざ置いて、一人店内に戻っていく姉貴。

……結局俺が片付けるしか無えなら、後回しにはしたくねえよな。

無理矢理気合いを入れて立ち上がり、片付けを始める。

それにしても、今日は本気で疲れた……。

 

 

「……たまには飲むか」

 

こんなにも疲れたんだから、たまには自分自身に褒美があったって良いはずだ。

なんとか綺麗に掃除した店内で、単に手軽に作れるからという理由だけでジントニックを作る。

適当な客席のテーブルに置いてから、椅子へ乱暴に座る。

 

「私の分は無いの?」

「……なら先に飲めよ」

 

もうここで言い争う気力はなんてどこにもない。

自分の分として作った酒を向かいの席に座った姉貴の前に動かし、もう一杯作り直してから席に戻る。

 

「ありがとう……うん、ユウヒの作るお酒はいつも美味しいね」

「馬鹿言えよ。誰が作ったって大して変わらねえだろ」

「そうだったら、あんなに常連になるハニー達はいないよ」

「そりゃ姉貴を……いや、何でもねえ」

 

姉貴を目当てにしてる客だろ、と反論しようとした口を途中で噤む。

ここで反論したって普段ですら言いくるめられるんだ、今みてえに疲れてたら尚の事だろう。

 

「ユウヒが自分で思ってるより、皆ユウヒの事を認めていると思うよ」

「……どうだかな」

 

俺が接客すると露骨に嫌な顔をしてくる常連だっているし、姉貴じゃねえならオーダーしないよ、なんて平然と言い放つ客もいる。

今日だってそんな客が混じっていたのも知ってる癖に。

姉貴の声色に嘘が混じっていないのも理解してしまうのが嫌で、ついつい酒が進む。

空になったグラスを持ってカウンターへ戻り、そのまま二杯目を注ぐ。

本来なら氷も取り換えた方がいいのはわかってるが、姉貴じゃねえけど面倒くせえ。

 

「お酒飲み過ぎちゃダメだよ。それで明日キツいのはユウヒなんだから」

「わかってるっつの!」

 

姉貴は一体俺をいくつのガキだと思ってんだよ。

疲れ以外のストレスも相まって、酒はあっという間に胃の中へと消えていった。