C425話
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「ハニー、また来てね❤️」
「またのお越しをお待ちしています」
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最後の客が、また来るよーアサヒさーん!と叫びながら道を曲がったのを確認して、その場にしゃがみこむ。
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「ああー……疲れた……」
「ユウヒ、今日は本当にお疲れ様」
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予約なしの団体客複数はしんど過ぎる。
姉貴もよくあんな大量のオーダーを覚えてられるよな……混乱し過ぎて、何度か姉貴に順番を聞いてしまった。
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「そのまま休んでていいよ」
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そう言って立て看板をしまおうと、持ち上げる姉貴。
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「あー……それ、一度消さないと次に書く時消えねえから……」
「え……何それ、めんどくさ……」
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持ち上げた看板をわざわざ置いて、一人店内に戻っていく姉貴。
……結局俺が片付けるしか無えなら、後回しにはしたくねえよな。
無理矢理気合いを入れて立ち上がり、片付けを始める。
それにしても、今日は本気で疲れた……。
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「……たまには飲むか」
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こんなにも疲れたんだから、たまには自分自身に褒美があったって良いはずだ。
なんとか綺麗に掃除した店内で、単に手軽に作れるからという理由だけでジントニックを作る。
適当な客席のテーブルに置いてから、椅子へ乱暴に座る。
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「私の分は無いの?」
「……なら先に飲めよ」
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もうここで言い争う気力はなんてどこにもない。
自分の分として作った酒を向かいの席に座った姉貴の前に動かし、もう一杯作り直してから席に戻る。
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「ありがとう……うん、ユウヒの作るお酒はいつも美味しいね」
「馬鹿言えよ。誰が作ったって大して変わらねえだろ」
「そうだったら、あんなに常連になるハニー達はいないよ」
「そりゃ姉貴を……いや、何でもねえ」
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姉貴を目当てにしてる客だろ、と反論しようとした口を途中で噤む。
ここで反論したって普段ですら言いくるめられるんだ、今みてえに疲れてたら尚の事だろう。
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「ユウヒが自分で思ってるより、皆ユウヒの事を認めていると思うよ」
「……どうだかな」
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俺が接客すると露骨に嫌な顔をしてくる常連だっているし、姉貴じゃねえならオーダーしないよ、なんて平然と言い放つ客もいる。
今日だってそんな客が混じっていたのも知ってる癖に。
姉貴の声色に嘘が混じっていないのも理解してしまうのが嫌で、ついつい酒が進む。
空になったグラスを持ってカウンターへ戻り、そのまま二杯目を注ぐ。
本来なら氷も取り換えた方がいいのはわかってるが、姉貴じゃねえけど面倒くせえ。
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「お酒飲み過ぎちゃダメだよ。それで明日キツいのはユウヒなんだから」
「わかってるっつの!」
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姉貴は一体俺をいくつのガキだと思ってんだよ。
疲れ以外のストレスも相まって、酒はあっという間に胃の中へと消えていった。