誤解もまた枷
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「……まさか……ッ!」
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白浜からの電話を切り、慌ててギルドの本部へとテレポーテーションする。
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視界にまず入ったのは、ソファに横になっているミナギリ、その傍に座る白浜とボウゲツ。
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……そして、テーブルに寝転がっているババ……神がいた。
「いやぁ、少しばかり遅かったんじゃない?」
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呑気に手を振ってくる女神の襟元に掴みかかり、怒鳴り散らす。
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「ババア!お前ミナギリに何しやがった!」
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「ぐえっ……何言ってんの?」
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「何もクソもねぇだろ!?」
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「いや、何もどころか誤解してるんですけど……」
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「どこが誤解だよ!」
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「私は何もしてねぇわ!」
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「は……?おい、本当か?」
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白浜とボウゲツを見やると、呆れたように首を横に振ってくる。
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え、違うのか?
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「取り敢えず手離せよクソガキが」
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襟元を掴んだままの手首を握られ、見た目からは想像もつかない程の力で締め上げられる。
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痛みの余り手を離すと、同時に解放され痛みも消えた。
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「私もあの人間が寝てから来てるんだからさぁ……少しは考えて行動してくんない?迷惑だなぁ……よっと」
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説教臭い言葉を並べながらテーブルへと乱暴に座るババアを無視して白浜に詰めよる。
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「白浜、お前は何をしてたんだ?」
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「あらぁ?ミナギリさんに勝算があるから眠ってもらっただけよぉ」
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「……本気か?」
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「ギルド長こそ何を怒っているのか理解出来ないわよ、私達の目的は夢魔退治よぉ?」
そう言われハッとする。
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俺は、何を焦っているんだ?
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解決への最短ルートがミナギリを使う事なら、例えそれでミナギリが死んだとしてもそれがこのギルドの正道だ。
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ババアを押し退けてテーブルに胡坐をかき、一息つく。
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「……そうだったな」
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「あとはミナギリさん待ちなんだから待ってあげなさいな……所で、貴女は何の為に?」
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「私?私はこれから出てくる夢魔の出待ちだから気にしなくていい」
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「出待ちって……どういう事っスか?」
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「気にしない気にしない」
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いくらでけぇとは言えテーブルの上で転がり回るなよ……座ってる俺も強くは言えねぇけど。
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「ねぇ、誰かお茶ー……ったく、言わないと茶の一つも出さないとかケチだよケチ」
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「図々しいババアだな……白浜、特別製を用意してやれ」
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「私の生肝入り玄米茶ってところかしら?」
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「ちょっ……そういう茶を出すような奴らって喧伝すんぞコラ」
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「おいやめろ」
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「……普通のお茶で良ければ、淹れてくる……っスよ?」
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「あー優しい人間だなぁ、ああいうのは貴重なんだから使い潰すなよ?」
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「あらぁ、不死身も貴重ではなくって?」
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「まぁ妖怪の中ではレア程度ってとこでしょ、そこそこ居るし」
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「それもそうだけれど、こうもハッキリ言われるとちょっとかなしいわぁ」
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「白浜をレア程度って……え、何者っスか?」
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「知らねぇままでいいから早く茶淹れてこい」
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「そうそう、知らぬが仏……まぁ仏とはちょっと縁が有るけどね!」
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「私も手伝うわよ」
白浜とボウゲツが茶を淹れにキッチンへ向かうのを見送る。
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……ダメだ。
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頭を乱暴に掻きむしり、焦燥感を誤魔化す。
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「果報は寝て待て、って言うだろ?大丈夫大丈夫、人間の欲は果てがないから」
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「……理解した風を装いやがって」
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「ふぅん、振りだと思う訳だ?」
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返事が返せない……いや、返さない。
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真面目に付き合っていたら、いつまでもつけあがってきやがる。
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だから無視をしているだけだ。
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「いやぁ……この後が、楽しみでたまらんね」
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嫌にニヤついた顔は、俺に向けてなのか、夢魔に向けてなのか。
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……考えない方がいいな。
「お茶入ったっスよー」
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「ふたりとも退きなさい」
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テーブルから降りると、盆を置き適当な位置に茶碗を置くボウゲツ。
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普通俺達に茶碗を合わせるんであって、茶碗に合わせた位置に俺達を座らせるんじゃねぇだろ……。
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色々な思考を、熱い茶と共に一気に胃に収めた。