忍者人間人魚と夢……?
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チリッと首の後ろが焼けつくような気配を察し、そちらに顔を向けると見知らぬ者が立っていた。
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ミナギリと白浜も同じように気配を感じたのか、3者で各々身構える。
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……と言っても、私は攻撃手段が無いから素手っスけど。
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「……あらぁ、このギルドに何か御用かしら夢魔さん?」
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「夢魔じゃなくて、む、じ、ん!そう、夢神ときちんと呼んでくださいよぉ?言ってみましょうか?はい、む、じ、ん!」
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「両方お断りするわ」
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もしかして……アレがギルド長の言ってた奴っスかね!?
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人間の私でも並外れた力を知覚できるっスし……。
「んもう、つれない人魚ですねええぇ……あっ!そうですねそうしましょうねっ!うん!うんっ!」
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首をかしげながら飛び上がると、ミナギリの周りを回りだす。
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ナイフを強く握りしめ、いつ首を掻き切ってやろうかと思案しながらも相手の動きを見定めるミナギリ。
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目だけがギョロギョロと動く様は、ちょっと気持ち悪いっスね……。
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「……何するつもり」
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「ちょーっと眠っていただこうかと思いましてえ!ちょっとだけ!ちょっとだけですから安心して下さい!」
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「出来ないって言われたけ、ど……ッ!?」
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突然ミナギリのケープの中へと手を突っ込む夢魔。
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さすがのミナギリも、あまりの事に目を見開く事しか出来ずにいる。
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そんな彼女を無視して、ケープの中をゴソゴソと漁ると何かを掴んで掲げてきた。
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「あああもうっこんな服の中にこんな安っぽいお守り紛いの代物なんてダメ!ダメダメですっ!こんなの着けてたら……眠れませんよお?」
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それを視認した瞬間、私と白浜の顔が青ざめる。
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ギギギ、とまるで音を立てるかの様に首を横へ傾けたミナギリの表情。
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私には笑っているのか怒っているのか判断がつかなかった。
「それは私の物だ!返せッ!!!」
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「何故ですかあ?」
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「……返さないなら」
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「首なんて狙っても無駄ですよう?そ、れ、にぃー、いーやですぅー!」
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ミナギリが夢魔の首を切りつけてもすり抜けてしまった辺り、物理的な攻撃は当たらないみたいっスね……。
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そう思いつつも夢魔の隙を窺う。
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「返せ!それは私の物だッ!」
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「いやだ、って言ってるじゃあないですかぁ!もう~、ちゃーんと自分のお、は、な、し!聞いてましたかあ?」
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「私の物だと言ってるだろうがッ!!!」
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「おぉっとー、物凄い勢いで殺す気できますねぇアナタ……こっわぁい!人間こわあい、です!」
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一人と一体が交戦してる中、ミナギリのお守りの紐が握られていた夢魔の手からなんとか奪い取る。
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ちらと見て、壊れていないのを確認すると安堵のため息が出る。
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壊れてたりしたら後が恐ろしいっスからね……。
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「ミナギリ!ぱっと見は壊れて無いっスよ!」
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「あれ……い、いつの間にいっ!?」
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「良かった、少しでも壊れてたら絶対……に……ぃ……?」
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「ミナギリさん!」
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「案外強力なものだったんですねえ、アレェ……ま、どんな強固な加護が有ろうとも手元に携えていなければ全く持ってなぁんの意味もないんですけど、ネ!」
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倒れ込むミナギリを受け止めて座る白浜と、その前に立つ夢魔。
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幾ら白浜が不死身とはいえ、相性悪そうっスね……。
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そう思っていたのに、当の白浜は笑顔を夢魔に向けていた。
「こっ!?……こういう時!どんなお顔になるべきなのかをご存知ですかあ?そんなニヤニヤとした邪悪な笑顔では無いと思うんですけど!」
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「何を言いたいか理解し難いわねぇ……私が浮かべるのは、この表情で合ってるわよぉ?」
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より深めた笑みを浮かべる白浜に対し、眉間をよせてたじろぐ夢魔。
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「私やあなたのような妖怪達が何に恐れるべきか、わからないのかしら……残念ねぇ」
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「人間が恐れこそすれ自分が人間になんて恐れたりなんて一切!しませんよ?だって自分は」
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「あなたも自身を理解しているでしょう?未だ神に成れていない夢魔である事を」
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「いいえ、そんな筈は有りません!有りえませんともっ何故ならば自分は神だと生まれた時から定められていますからね!あっそれも死なないだけしか取り柄のない人魚に言っても無駄無駄のムダ!って感じなんでしょうけど!」
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「ならあなたの名を名乗ってみなさいな?私は白浜輪音よ」
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「我が名はモルフィウム・パンタイクロイ!幾つもの神性を組み合わせる事により、強大な信仰を手に入れた夢神!」
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「口調、崩れてるわよぉ?うっふふふ」
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「うっうるさいうるさいですうるさいんですよお!自分の口調と自分の神性は関係の無いお話です!誤魔化そうとしたでしょうそうでしょうあーあ!残念ながら効果は無かったみたいですよっ!」
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「幾つも神性を重ねてまで神に成ろうとしているから、自分の事を必死に定義付けしないと自我が崩壊しちゃうのねぇ……かわいそうに」
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「黙れ妖怪風情がッ!……こほんっ!自分は夢を見てまで願いを叶えたい!って方々に文字通り夢を見せて差し上げてるだけなんですよお?そこから夢を現実にす、れ、ばぁ……なんと!より幸福な世界になるではあーりませんか!?素敵でしょう?最高でしょう?夢、見たくなっちゃうでしょう!?」
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「えぇ、だからあなたはミナギリさんに倒されるのよ」
「そ……そんな筈は!」
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いつの間にか白浜の方が上手になっている。
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これが白浜の怖いところっスよねぇ……絶対敵に回したく無いっスよ。
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「ミナギリさんの欲望、少し強化された程度の夢魔に扱える代物だと思って?」
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「人間の欲望なんてたかが知れてるんですよねえ、正直まーだその辺の妖怪を眠らせた方が実入りが良いっ!てものです」
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「それはまともな人間相手の場合の話でしょう?あなたとは仲良くなれそうだったのに……本当に、残念だわぁ」
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「そうですねえ?本当に残念ですう……あら?あらら?あらららら!?」
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ミナギリを見ながら口元に手を当てる夢魔。
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笑いをどうにもこらえきれないといった表情だ。
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「んもう、仕っ方ないですねえ!まさか夢の中で自我を失ってしまうとは……情けない!なんとも情けない人間!自分がお手伝いしに行かなければただの神力の無駄喰らい!それではっしゅばば!」
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逃げたのか、発言通りなのかはわからないけれど、煙の様に消え失せる夢魔。
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どちらにせよミナギリの夢の中に入ったって事……っスかね?
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白浜はミナギリがロビー内での定位置にしているソファに寝かせ、ミナギリの頭を優しく撫でる。
「恐ろしいわねぇ……」
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「え?何がっスか?」
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「ミナギリさん、あの夢魔を倒すわよ」
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「……どういう事っスか?」
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白浜の説明は、いつも不足が多過ぎて理解できない。
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ギルド長もそうだったっスから、長く生きるとそうなるものなんっスかね……?
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あーあ、年は取りたくないものっスね。
「ボウゲツさんはあの夢魔を弱らせる方法、思いつく?」
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「いやぁ……正直、これっぽっちも思いつかないっスね!」
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「正直なのは人間としてはとても良い事よ?……夢魔も妖怪だもの、使える魔力には限界があるのよ」
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「限界……っスか」
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「ミナギリさんの願い、このギルドのメンバーなら全員同じ答えが出るわよねぇ?」
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「妹の事っスよね、それはわかるっスよ」
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「そうよ、ミナギリさん……きっと、自身が思いつく限りさまざまなバージョンの妹さんを要求するわよ」
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つまり、大量の妹を作り出す……?
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「……あぁ!それで魔力切れを起こさせるって訳っスね!」
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「えぇ、まだ夢魔だったようだから、魔力が切れたら夢から追い出されるわ」
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「……そうすると、どうなるっスか?」
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「そうねぇ……ボウゲツさんでも、棒で叩けば倒せるんじゃないかしら」
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「ザコになるって事っスね!……んん?」
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なんだか物凄く罵倒されたような気がするっスけど……?
違和感を抱く私と、携帯でどこかに連絡する白浜。
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「あらぁ、ギルド長生きてたの?……うふふ、朗報よ……もう直ぐ倒せるわ、ミナギリさんが協力してくれたお陰でねぇ……なら戻っていらっしゃいな、うっふふふふふふ」
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電話の向こうの声は聞こえないけれど、白浜の反応でギルド長が何を言っているのかは想像がつく。
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……白浜って、本っ当に性格悪いっスよね!
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言ったが最後どうなるかわからないので、黙っておくっスけど……。
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「あらぁ、何か言いたい事があるなら言っていいのよ?」
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「な、ないっスよ?」
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「あらそう?うっふふふふ」