自由と夢の流星

Last-modified: Sat, 18 May 2019 23:40:04 JST (1827d)
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ホワイトカラーまで買い物にきて、同僚のアイシーンと偶然出会ったのでコーヒーを飲む。

 

うん、私好みの苦味がガツンと効いた味だ。

 
 

「ちょっと、物真似して感想を述べてみてもいいか?」

 

「別に良いけれど……厳しくいくわよ?」

 
 

前髪をいそいそと右側に寄せ、足を組み左手でソーサーを持つ。

 

右手の人差し指と中指はカップの取っ手にかけ、親指と共に押さえて一口飲む。

 

ニヤリ、とニヒルな笑みと共に一言。

 
 

「うん、この店は中々やるね……私の好みをよく理解しているよ」

 

「ふふふ、エスプリーストよね?結構似てるわ」

 
 

なんて、話が弾む。

 

話もひと段落つき、カップの中身も無くなった頃にふと上空を見上げてみる。

 

キラリと流れる流星がふたつ。

 

それを見た瞬間、箒を引っ掴んで上空へと飛翔する。

 
 

「ちょっと、何が……ッ!!」

 
 

アイシーンも店員を呼び片付けを頼むと、直ぐに箒に乗って私を追い掛けてきた。

 

理由は簡単だ。

 

何故か、上に昇っていく流星を見つけたからだった。


「アレは何か知ってるか!?」

 

「まだわからないわね……何か、不吉なものでなければ良いのだけれど」

 

「よく見えないな……」

 

「私は後で追い付くから、先に行って頂戴」

 

「了解!」

 
 

腹に巻いているベルトに挟み込んである魔方陣のうち、一枚を取り出して箒に貼り付ける。

 

魔力を帯び、魔方陣が白く発光すると私は一気に加速した。

 
 

「どーこまで飛ばされるんですかあコレはあああああ!?」

 

「うーん、どこまでだろうなぁ……もうこのままプシュケに突っ込むか!」

 

「プシュケ?ってどこです!?知らない単語を急にブチ込むのやめて下さいよ自分には今恐怖しか無いんですから配慮してください!?配慮!」

 

「……なんだアレ!?」

 

「うおおおおおおおおおおおッ!止まらんッ!!!」

 

「なんだったんだ、アレ」

 

「知りませんけどっ!?」

 

「いや、独り言にゴチャゴチャ言わないでほしいんだけど……」

 
 

通り過ぎてしまったので慌てて魔力供給を止め、箒に急ブレーキをかける。

 

力を失った魔方陣は、方向を反転した箒から剥がれ落ちて風に溶けていく。

 

幸い、そこまで行き過ぎた訳ではないので直ぐに戻って来る事が出来た。

 
 

「誰かと思ったら……コア=トルの契約者か!」

 

「私をそう呼ぶのは……コア=トルの友達か!」

 
 

相手に合わせて飛びながら顔を視認すると、お互いに指先を向けて叫ぶ。

 

コア=トルの友達ならば、十中八九が神だ。

 

ここまで焦って飛んでくる必要は無かったらしい。


「え、なんで一回追い抜いた訳?」

 

「……そこは気にしないで欲しいんだがな」

 

「なら尚の事気になるけど……」

 

「……あら?リプレのお友達じゃない」

 

「あ、どうもリプレの友達です」

 

「今日はご飯食べに来るのかしら?」

 

「いや、今日は良いかな……」

 
 

ナイスアイシーン!……と言いたい所だが、神を餌付けするとか凄いなお前。

 

……違った、そんな事より本題だ。

 

「……それより、お前達こそ何をしているんだ?」

 

「え?鬼にコイツが殴られて、巻き添えで飛んでる的な」

 

「コイツことモルフィウム・パンタイクロイでぇす、正直今めちゃくちゃ怖いんで助けて欲しくてたまらない夢魔でえええす!」

 

「夢魔?」

 
 

聞こえた単語に眉をひそめる。

 

……コイツが筑摩やブラウンを?

 

絞めあげてやろうか、などと考えていると右手で制される。

 
 

「トゥヴァン、冷静になりなさい」

 

「……そうだな」

 

「ちぇー、なんだよ怒りの余りブチのめす!みたいな事有るのかと思ったのに」

 

「グエッ!……くるし……っ」

 

魔法使いは常に冷静に魔法を練り上げるべし……プシュケ卒業生の常識よ?」

 
 

私はプシュケ出身じゃないけどな。

 

かと言って、その教え自体が間違っているとは思わない。

 

怒りで魔法を間違えてしまっては、取り返しのつかない事になってもおかしくはないからだ。

 

夢魔ことパンタイクロイは、高度のせいかブチのめす発言の時に神に振り回されたせいか、気絶してしまっていた。


「それで、一体どこまで飛ぶつもりなのかしら?」

 

「私ならプシュケの結界を抜けられるから、そこまで飛んで行こうかなー、と」

 

「あら、そうしてどうするの?あの学校に手出しするなら私だって容赦しないわよ」

 

「違う違う!あの学校に被害者とかっている?」

 
 

アイシーンと顔を見合わせる。

 

私の所には少なくとも被害者の情報は届いていない。

 

それに、夢魔程度にあの結界が抜けられるとは思わない。

 

最先端魔術に古典的手法などが組み合わさり、ミルフィーユ状に編まれたそれは結界操作を専門としている魔法使いでも中々壊せないような結界になっているからだ。

 

……そのせいで、メンテナンスも大変らしいが。

 
 

「あ、居ない感じ?」

 

「居る、といえば……エスプリーストが居るに入るのかしら?」

 

「エスプリーストが?あいつ、こういう手合いは全部視えるから関係無いんじゃないのか?」

 

「ラバック、って言ったかしら……その妖怪兎が、彼女を訪ねてきていたのよ」

 

「うーん、じゃあ迷惑は掛けてる訳ね……このまま行くかー」

 

「……このまま飛んでもプシュケには着かないぞ?」

 

「え、マジかよ……仕方ない、中心点抜けるかぁ」


「中心点!?」

 

「ぉわっ、急になんだよ……こわ」

 
 

今、中心点って言ったよな?

 

それって、世界の中心点の事だよな!?

 
 

「お前、世界の中心点に、行ける……のか?」

 

「行けるも何も……あそこに家有るし」

 

「何!?あそこはどうなっているんだ?何が有って何が無いんだ!?」

 

「いや、樹っつぁんから許可出てないとあんまり言ったりしたらダメだから言えないんだよね」

 

「私もいつかあそこに行くつもりなんだ!だから……」

 
 

アイシーンに羽交い締めにされ、冷却魔法で身体が冷やされていく。

 

低体温で力が出ない。

 
 

「今のうちよ!行きなさい!」

 

「サンキュー!今度何か持って行くよ」

 

「あぁ、ぁ……」

 
 

私の懇願を残して、希望はさらに上へと飛んでいった。

 
 
 

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