この世の窓は割れるものだよ、物だからね

Last-modified: Sat, 18 May 2019 23:49:20 JST (1827d)
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「あーもう、マジ何だったんだよ……」

 

「ちょっとくらい教えてあげても良かったんじゃないですかあ?自分からするとすこし突き放しすぎにもとれたんですけどもぉ」

 

「んな事言ったって、私があそこに行っていいって許可出す権限がある訳でも無いしなぁ……って夢魔に言ってもしょうもないか」

 

「彼女の夢を叶えて差し上げた方が良いでしょうかね!?」

 

「は?反省してないだろおま……あっ、ヤベッ!!」


盛大な衝突音と共に、プシュケ所属図書館スンマの天井付近のガラスが割れる。

 

生徒達の悲鳴が上がる中、グノームとエスプリースト先生が現場へ急行していく。

 
 

「何事だい!?」

 

「わかんない!」

 
 

そう叫び合いつつも防衛魔法を張り、被害を出来るだけ抑えようとしていくグノームとエスプリースト先生。

 

居てもたってもいられず、俺も箒に乗りフラフラと追いかける。

 
 

「俺もなんか手伝います!」

 

「宝藤、君は邪魔だ!」

 
 

俺が唯一得意な反射魔法を重ねて、少しでも手伝えるかと思ったけど断られた。

 

うーん、でも何が有ったのか気になるな……。

 

よし、野次馬根性でついていこう!


到着すると、グノームとエスプリースト先生、俺が以前召喚した神様、知らないやつが居た。

 
 

「ナイスグノーム!さっすが私の見込んだ妖精だね」

 
 

尻もちをついた格好のまま、親指を立てて突き出している神様。

 

割れた窓を見上げると、結界の断面がいくつも見え隠れしていた。

 

……え?あの結界全部ぶち壊して衝突してきたのか?

 

実はこの神様、すっごいヤバイ神様なんじゃないか?もしかして。

 

エスプリースト先生は、結界をとりあえず張り直そうと窓の外に出て対応していた。

 
 

「楓様!いくらなんでも図書館の窓を割るのは無いと思いますよ!?」

 

「いやぁすまんすまん、ちょっとよそ見してたらね」

 

「余所見なんてしたらダメな事知らないんですかねっ特に自分を捕縛したまま連れ回している自覚がないのではないですかあ?」

 

「……なんだコイツ!?」

 
 

思わず叫んで質問したけど、そのすぐ後に後悔するとは思わなかった。

 

「なんだコイツとは夢魔ことモルフィウム・パンタイクロイ通称モルフィの事ですねっ!?

 

まぁここは魔術抵抗値が高過ぎて何も手が出なかったのでそもそも自分自身がここでどの程度の認知度があったかどうかすらもわからないんですけども

 

自己紹介と言うのは非常に大切な事ですからしっかりとさせていただきましたよはい!」

 
 

うるせえええ!

 

俺もうるさいってよく言われるけど、こういううるささじゃないぞ!?

 

しかも、結局何者なのかわかんなかったし!

 
 

「……で、だから誰なんだよ!?」

 
 

俺が首をかたむけると、グノームと神様は苦笑いを見せる。

 

え、俺間違ってた?

 
 

「伝わってねぇのは笑うでしょ」

 

「ほーとー、夢魔のモルフィウム・パンタイクロイだって、ちゃんと言ってたよ?」

 

「モルフィとお呼びして下さいねっ!」

 

「モルフィウム・パンタイクロイでいいんじゃない?」

 

「おーおー、グノームは胡散臭い奴はモルフィだなんて呼んでやりたくないってよ、バカ」

 

「楓様も黙っててください」

 

「あっはい」


グノームは大分怒っているのか、いつもは神様に従っているのに、強く当たっている。

 

そりゃそうだよな、自分の大好きな図書館を壊されたんだもんな。

 
 

「私達が一生懸命守ってるんだから、夢魔程度がここに入れる訳ないじゃない!」

 

「まぁ今現に入っているんですけどね!」

 

「私が破ったからな!」

 

「楓様、直してくださいよ!」

 

「へいへい……今度ね」

 

「今です!エスプリーストだけで直せる訳じゃないんですから……ほら、いきますよ!」

 

「うぇー……」


グノームと神様が割れた窓へ飛んでいき、修復作業に取りかかっていく。

 

ヒマだし、夢魔?に色々質問してみることにした。

 
 

「何しにきたんだ?」

 

「あの神に連れ回されながら自分が被害を与えた方々に謝罪行脚中です」

 

「しゃざいあんぎゃ?」

 

「謝って回ってるって事ですよ!バカですねっ」

 

「あんな喋り方じゃなくても喋れるのか!?」

 

「伝わらない方がずっと屈辱ですっ」

 

「くつじょく……は何となくわかる」

 

「……相当な知能指数なんでしょうねぇ、アナタ」

 
 

心の底から馬鹿にしたような笑顔を見てきやがったこいつ!

 

むかつく!

 
 

「謝らなくちゃいけない事したやつに言われたくねぇよ!」

 

「……自分だってこんなお馬鹿さんに説明するのイヤですよ」

 
 

吐き捨てるように言う夢魔に何か言ってやろうと思ったけど、グノームと神様、エスプリースト先生が戻ってきたからやめておく。

 

正直言うと別に何も思いついていなかったから、ちょっと助かった。


「よっし終わりー!」

 

「ふたりともありがとう、助かったよ」

 

「楓様、次は無いですからね!」

 

「どう?謝った?……って言っても、直接被害は受けてないんだよねぇ」

 

「直接はって……間接的被害なんてあったんですか?私は聞いていないですけど……」

 

「あー……恐らくラバックの事だね、ここに来て調べ物をしていたよ」

 

「ラバック……って誰でしたっけ?」

 

「宝藤、君はもう忘れたのかい?……ほら、妖怪兎が先日来ただろう」

 
 

エスプリースト先生の口から飛び出した言葉で、ようやく思い出す。

 
 

「あー!あのラッパーみたいな名前の!」

 

「……その考えは無かったよ」

 

「まぁラッパーだろうが何だろうが良いんだけど、迷惑かけたんでしょ?」

 
 

俺とグノーム、エスプリースト先生で顔を見合わせる。

 
 

「エスプリースト、迷惑だった?」

 

「いや、特には迷惑では無かったけれど……宝藤、君はどうだった?」

 

「初めて妖怪兎を見て楽しかったです」

 

「……という訳だ、誰も迷惑は被っていない様だよ」

 

「強いて言うなら図書館の窓と結界を割られた事ですね」

 
 

グノームの言葉に気まずくなったのか、神様が夢魔を軽く蹴る。

 
 

「オラッ、謝れ!」

 

「ええっ自分が割った訳でも何でもない窓と結界の事を謝れって強要するんですかぁっ!?横暴にも程がありますっいやですう!」

 

「神は皆横暴なんだよ!」

 

「言い得て妙だね」

 

「それっぽい言葉で誤魔化さないで下さいよっ今回ばかりは絶対に謝りませんからねっほらお馬鹿さんのアナタもそう思うでしょう!?」

 

「えっ、俺?」


突然話を振られても困るし、別に俺、窓の事何かできた訳じゃないしなぁ……。

 

でも、グノームの怒りは正しい……気がする。

 
 

「俺はバカじゃないけど、ふたりとも謝ればいいんじゃね?」

 

「すまん!はい謝ったー!これでお前だけが謝ってないー!」

 

「楓様……こんな神様に仕えている私って……」

 
 

跳びはねて主張する神様に呆れ果て、乾いた笑いしか出てこないグノーム。

 

エスプリースト先生が、無言でグノームの肩を優しく叩く。

 
 

「諦めなさい」

 

「そんなぁ……」


落ち込むグノームを尻目に、神様と夢魔の……なんだっけ、とにかく夢魔が図書館の奥に向かっていく。

 
 

「どこ行くんすか?」

 

「秘密!あと少しだけやりゃ終わりなんだから止めんな!」

 

「えっあと少し!?ねぇ今あと少しって言いましたよねっあと少しですってよ皆さん聞きました?ねぇねぇあと少しって」

 

「うるっせぇなぁもう!」

 
 

神様は夢魔をぶん殴って静かにさせた後、図書館の奥へと消えていった。

 
 
 

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