自分本位ども

Last-modified: Sat, 18 May 2019 22:15:55 JST (1827d)
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俺は楓に言われたものを、ギルド長や妖怪兎と共に集めていく。

 

キッパーさんを起こす為?……確かに、あの妖怪兎の落ち込み様は異常だった。

 

ウタコさんを起こす為?……確かに、また起きてアイドルとして活動して欲しい気持ちに嘘はない。

 

だが……なによりも。

 

俺が死なない為だ!


「よし!これで全部揃ったし、これで準備の準備が終わったわ」

 

「準備の準備!?神なんだから俺みてぇにチョチョっとやれば終わりになったりしねぇのかよ」

 

「成功率が高い方法がいいでしょ?今回、特にアレには気付かれない方が良いんだから」

 

「よくわからないけど……そういうものなのかい?」

 

「こっちの都合だから無視していいんだよ……ほら、作り方言うから作った作った!」

 
 

用意した液体のうち、幾つかを混ぜ合わせる。

 

楓から渡された木の枝で混ぜていると、黒く濁った液体が光り出した。

 

それを、水が入った透明なカップへと注ぐと……何故か、玉虫色になったぞ?

 

色を確認させると、楓は満足気に頷いているから合っているらしい……。

 

なんて非科学的な液体なんだ。

 
 

「さあ、ウサギ、これを飲んでちょうだい」

 

「……ねぇ、本気で言ってるのかい?」

 

「飲まなくても良いけど飲んだ方が成功率上がるから」

 
 

よかった……俺が飲む訳ではなくてよかった。

 

作っておいてなんだが、何の原理でこうなったのかわからん。

 

そんな訳の分からない液体、俺は絶対飲みたくない。


「……よし、キッパーの為なら!」

 

「おっ!いい飲みっぷり!」

 
 

覚悟を決めたのか、一気に飲み干していく妖怪兎を囃し立てる楓。

 

……結構量がある上に粘度も高いが、飲み切れるのか?

 
 

「……っぐ、……ぐぅ……っ」

 

「おい、随分と苦しそうだが……本当に、飲んで大丈夫な物なんだろうな?」

 

「そんなにヤバい奴は人間には作れないから平気平気」

 
 

そうか?ならいいんだが……。

 

脳裏にチラリと幾つかの毒物の化学式が思い浮かんだが気のせいという事にした。

 
 

「……ごちそうさまっ!」

 
 

タンッ、と机にカップを置き、口元を手袋で拭く妖怪兎。

 

手袋についた液体は、水銀のように光っていてつい眉間に皺が寄る。

 

……よくもまぁ飲み干せたな……。


「よし、そしたらベッドに寝てくれや」

 

「寝方は?」

 

「……いや、好きにしなよ……」

 

「おいババア、俺はどうすりゃいいんだよ」

 

「お前は傍観者だから黙ってて、というか喋ったら儀式その物が崩壊する」

 

「……俺必要か?」

 

「必要だよバカガキ、観測者が居ないならそれは無かったも同然だから」

 

「……そうかよ」


ベッドの色は黒でないと駄目らしく、妖怪兎の部屋にベッドは何色か聞いたらそもそも設置していないらしい。

 

その為、儀式を行うのは貴賓室の一室だ。

 

キッパーさんは自室で眠っているままで何も問題無いとか。

 

部屋が違うのは関係無いとか……本気でよくわからん事やらされているな、俺。

 
 

「じゃあ仰向けでいいかな……さて、おやす」

 

「まだ寝るな!弥彦、これをベッドを囲むように散らせ」

 

「兎の周りじゃなくてか?」

 

「ベッドって言ったでしょ、一回で理解しろよ面倒臭いなぁ……」

 
 

オリーブやローリエ、カモミール……意味はあるんだろうが、スパイスかなにかに思えて仕方がない。

 

真ん中が妖怪とはいえ兎なのが余計……いや、やめておこう。


「そうそう、最後に……これ、持って寝てね」

 
 

楓直々に用意した、謎の螺旋を描いたような形状の植物を持たせる。

 

いわく、夢魔に同一体と誤魔化しをかける事によって……とかなんとか言っていたが、理解不能だった。

 
 

「さぁ、弥彦カウントダウンして」

 

「5、4、3、2、1……」


「……寝たな」

 

「さて、これで私達のやる事は終わりだ」

 

「放っておいていいのか?」

 

「全部私がやったんじゃ、私が助けた事になるでしょ?」

 

「言ってる意味がわからん」

 

「あ、傍観ももう終わったから喋っていいよ」

 

「……本当に見てるだけなんだな」

 

「それが一番大事なんだよ、傍観者がいるからこそ儀式を現実化していく事が可能なの」

 

「あー……なるほどな」

 

「……凄いな、よく理解できるな……」

 

「まぁ、俺は専門じゃないだけで専門家自体はギルド内に居るからな」

 
 

部屋の隅に置いていた椅子に座り、必要な物として書かれていた菓子をテーブルに広げ食べ始める楓。

 
 

「……おい、楓お前まさか」

 

「この為に用意させたブツだから問題なし!」

 
 

先程まで、少しでも本気で信仰していた自分が嫌になった。

 
 
 

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