巻き込まれ体質に変わった人間

Last-modified: Sat, 18 May 2019 22:11:46 JST (1827d)
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「せーの、……あらよっと!」

 

「え?何事だ……テメェかババア!」

 
 

指を鳴らし、クソガキを召喚する。

 

信仰心がそこそこあればこの程度の事、どの神だって造作もない。

 

まぁ、幾ら樹っつぁんの保険があるからといって、使い過ぎも良くないのでしょっちゅうという訳にはいかないけれど。

 
 

「神から直々に招かれたんだよ?お礼のひとつでも言ってみろよ」

 

「無理矢理喚んだのは誰なんだと思ってんだよ!」

 
 

一々つっかかってくんなよ、面倒臭いし青臭いなあ。

 

これだから若者は嫌になるね。

 

その点人間は最高だね、すぐ信仰してくれるし。

 

難点は、私達神からすれば赤子のうちに消えてなくなるって事くらいで。


「……で、今度は何だよ」

 

「気が変わった、手伝ってやるから小間使いになれ」

 

「……いや……言い方ってものがあるだろう……」

 

「大石の言う通りだろ、まったくババアってやつはなんでドイツもコイツもこう……」

 

「どうでも良いけど早くしてくれないかい?」

 
 

うるっさいなぁこの兎、今遊んでるんだよ見ればわかるだろ?

 

あ、でもいざ起こそうとして信仰が足りませんでした!ちゃんちゃん!……ってのはいくらなんでも不味いだろうし、少しくらいは頑張るか。

 

まぁ駄目だったらコイツらが信仰してくんなかったせいであって私が悪い訳ではないけど。

 
 

「ほら、お前ら信仰して!はやくはやくカモーン」

 

「誰がババア教信者になるかよ」

 

「なんかこう……神らしい格好とかしてくれた方が俺達もやりやすいというか……」

 

「神に願って吸血鬼を助けるとかロマンチックだよね……」

 

「そこのロマンチストラビットはちょっと黙って私を信仰して、そうしてくれれば吸血鬼も早く助かるから」

 
 

おぉ、兎の信仰心結構あるじゃん。

 

本気で助けようと神に願う奴の信仰は量も多いし……その割にはちょっと純度が低いけれど、十二分に素晴らしいの範疇だね。

 

問題はクソガキと……大石も、さっきまでに比べてなーんかイマイチなんだよなぁ。

 
 

「しゃーない、少しは神様らしい格好になるか」

 
 

楓の葉を周りにばら撒き、目隠しを施しながら着替える。

 

着替えるといっても、本来は一瞬なんだけど。

 

そこはほら、演出ってやつよ。

 

そういう神秘性が信仰心への近道、ってね。


「ほぉら、信仰しやすくなったろう」

 
 

突起が幾つかついた葉の冠、緩やかに身体を取り巻く白い布、そしてサンダルの下には砕けた鎖。

 

これならどう見ても女神と呼べるだろうよ。

 

そもそも、こっちが私の本来の恰好ともいえるし。

 
 

「……何か……、物凄く、見覚えがあるような」

 

「人間よ、それは気の所為なのです……」

 

「その口調は気持ち悪いぞババア」

 

「神々しさを理解出来ぬ愚か者よ……」

 

「芝居にしか見えないね」

 
 

要望には答えたのに一体何が不満なんだこいつらは。

 

この格好と口調、永住人と樹っつぁんからの評判は最高評価なのに。


「……あっそ、じゃあ普段通り喋るわ」

 

「格好自体は悪くはねぇんだけどなぁ……」

 

「あっ!どうも見覚えが有ると思ったらその格好は」

 

「それ以上はいけない!デコピンパンチ!」

 

「〜いっ!?……てぇ……っ!」

 

「おい、大丈夫か大石!」

 
 

ふう、口封じ成功。

 

そういうのを気軽に言うのは良くないぞ?

 

命が短い人間は沈黙していた方が長生きできるってもんよ。

 

まあ、それが出来ないからこそ人間は面白いコンテンツなんだけどね。

 
 

「信仰心があれば痛みを無くしてやる事もできるけど?」

 

「最早ヤバい薬にしか聞こえねぇな」

 

「大丈夫だ、そこまでの痛みではない……それに、律儀に黙っている妖怪兎に悪いからキッパーさんを」

 

「はやくはやくはやく」

 

「ある意味、コイツが一番私の事信仰してくれてるよ?弥彦、ちょっとこっち来い」

 
 

呼び寄せると、素直にこちらへ来た。

 

……さて、信仰を手っ取り早く得る方法はふたつある。

 

ひとつは恐怖心を煽り、そいつの心の支えに成り代わる事。

 

もうひとつは、人ならざる出来事を見せつける事だ。

 

私は器用だから、同時に行う事ができる。


「な、何をする気だ……?」

 

「まぁ聞けって、これから行うのは、神による儀式なんだよ」

 

「はぁ?」

 

「当事者の兎、傍観者のクソガキ……弥彦、お前の立場は何だ?」

 

「いや……意味がわからないんだが」

 

「ババア、大石にわかりやすく言ってやれよ」

 
 

うるせぇよクソガキ、順序って物を理解していないなら黙っとけよもう。

 

無視をして、弥彦を傷つけるとわかっていて、指と事実を突き付ける。

 

それは、より純度の高い信仰を得る為の調味料。


「お前はこのまま儀式に参加すると死ぬ、間違いなく死ぬ」

 

「えっ……」

 
 

ここでニコリと笑い、腕を広げる。

 

慈愛に満ちているかのように、施しを与えるかのように、罠に落とすかのように。

 
 

「だから、私が直々に儀式に関わらせて、加護を授けてやろう……そうすれば、死なずに済む」

 

「本当か!?」

 
 

うーんチョロい……チョロい人間は好きだよ、扱いやすいからね。

 

私に希望を見出した弥彦からの信仰が、純度も質量も上等なものになってゆく。

 
 

「弥彦……お前は、私の言う事を聞いて、儀式の執行者その物になれ」

 

「俺が……?」

 

「そう、人ならざる者同士の夢を繋ぐのは、人であるお前が相応しい」

 
 

別にそんな事なんて微塵も無い。

 

私からすれば、夢魔をボコる前に消化試合をやらされてるものだ。

 

けど、ここで信仰心という点数を稼いでおいて悪い事なんて何もない。

 
 

「さぁ、儀式の準備だ!……今から言うものを揃えてこい!」

 
 

視界の端で汚物を見るような目で見てくるクソガキは、まったくもって見えないなぁ? 

 
 
 

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