突然の救援と要請

「た……助けて下さい！」

「なんだ？」

先程よりやや開けた場所に、弓矢で狩りをしている人影を見つけて助けを求める。

振り向いてこちらに気がついて下さったので、全力で走って近づいていく。

「はぁ、はぁっ……た、助け、て、下さ……い」

「だれをだ？おまえか？とりあえず、しんこきゅうしたほうがいいぞ」

「お、お姉様を……私みたいな格好した人を助けて下さい！」

「よくわからんが、わかった」

あまりに声色に抑揚が無い。

本当に助けて下さるのかが不安で見上げると、その人の身長がかなり高い事に気がつく。

一人で使うとは思えない大きな弓に矢を番え……首を捻り始める。

「たすけ？だれがひつようなんだ？」

「えっと、ですからお姉様を……」

「そういうふくのやつ、だろ？ひとりでげんきにあるいてきてるぞ」

「え？」

構えていた弓を降ろして指を差され、そちらを向く。

私が通ってきた草むらとは違い、獣道か何かを通ってお姉様が歩いてきた。

「あら、メイここで待っていたのね」

「お姉様！ご無事だったんですね！」

「だから大丈夫と言ったでしょう……こちらの方は？」

「この方にとりあえずお姉様を助けて下さるようお願いしたんですが……」

「わたしか？わたしは、ちょっとたのまれて、まじゅうがりをしにきたんだ」

魔獣……だからナイフが通らない程に毛が硬かったのでしょう。

それにしても、見た事もない魔獣が出るだなんて……やっぱり、ある程度以上街から離れると危ないんですね。

「あら、そうでしたの？なんとか隠れてやり過ごしたのですけれど……貴方の手によって退治されるのなら、私達は運が悪かったようです」

「いや、そのつもりだったんだが……けはいがなくなった」

「そうですか……貴方の様な強そうなお方に気付いて、諦めたのかも知れませんわね」

「そうか……あいつはにげた、っていっておくか」

ふふん、と声に出して笑う声にも抑揚は無いですが、誇らし気にしているのは両腕を腰に当てて胸を張っている事からわかりました。

「だいじょうぶだったか？……えっと、なまえ」

「これはご挨拶が遅れまして……私は堂々セイ、こちらは妹のメイです。助けて下さろうとしたそのお気持ちに感謝致しますわ」

「あ、ありがとうございます！」

二人で頭を深々と下げ、謝意を告げる。

「あたまは、そんなかんたんにさげるものじゃないぞ？しっかりと、まえをむいたほうがいい」

肩を掴まれ、驚いている間に頭を正面に向けさせられる。

お姉様はその動きを見て、自分から動いていた。

「……失礼致しましたわ、ところで、お名前を伺ってもよろしくて？」

「わたしはリプレだ。けっきょく、わたしもたすけてないんだから、ありがたがることじゃない」

「ですが、私達お礼らしいお礼もご用意していないのに助けて下さろうと……」

「きにするな、アイシーンだってそうした」

「アイシーンさん？」

「貴方のお知り合いですか？すみません、二人揃って存じ上げず……」

「わたしの、からだのおんじんだ」

体の恩人……ご飯とかを戴いている、って事でしょうか？

お姉様に視線を向けても、リプレさんを見つめていらっしゃったので聞くに聞けなかった。

「ふたりは、このあとどうするんだ？」

「この辺りにギルドがあると聞いたので、そこにお世話になろうかと」

「ギルド……いちげんさんぶんのことか？」

「今までは二人でやってきていたのですけれど、中々難しくなってきてしまいましたので……」

聞いた事の無いギルドの名前に対してもそつなく返答しているだなんて、お姉様は存じ上げていたんですね。

私なんて、そもそもメルトピアにこんなに深い森があるなんて事も知らなかったのに……。

「いろいろと、たいへんなんだな……あんないするから、ついてこい」

「ありがとうございます、けれど大丈夫ですよ……幸い、看板もそこにありますので」

「そうか」

会釈して看板に向かっていくお姉様を、早足気味に追い掛ける。

「そうそう、いっておくことがあった」

呼び止められ二人で振り返ると、突き出された右手は親指を上げていた。

「ぐっどらっく、がんばれ」

私達の幸運を祈って下さるリプレさんに対し、二人でもう一度会釈する。

リプレさんは両膝を曲げ、そのままジャンプの要領でこの深い森を飛んでいった。

……凄い脚力ですね。

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