知ってか知らずか月の兎

Last-modified: Sat, 18 May 2019 22:58:24 JST (1827d)
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「よし、とっりあえず近いから兎達からな」

 

「あのお……そろそろ腕が痺れてきてしまってつらいのですが……ね?ほら、この縄を、ね?」

 

「え?腕が無ければ痺れる事は無いって言いたいの……?流石の私でも引くわー」

 

「痺れる事バンザイ!ああっバンザイ出来ませんっどうしましょう!?」

 

「知らないよ」

 
 

頭上……と言うよりも、上空から汚らわしい声と気配が私に届いてきました。

 

恐らく、夢魔の件でしょうね。

 

えぇ、予想通り、黒幕だと言う夢魔が謝罪にやって来ました。

 

縛ったロープの先を握る……品の無い女。

 

その下品さで懲らしめでもしたのでしょう。


「えぇ、私は真相は全て把握しておりましたとも」

 

「へぇ?」

 

「私があの蛙より劣っている筈が無いのですから……偽神同士で、何か企んでいたのでしょう?私には理解出来ていますとも」

 

「ほーん」

 
 

興味が無さそうに相槌を打つ下品な女。

 

私の高貴さに当てられてしまったのでしょう、仕方がありませんわ。

 

私は無二の玉兎。

 

有象無象は許さなくとも、私は許すのです。

 

それも、高貴なものの務め。


「……不問にして差し上げましょう、私の寛大な御心に感謝なさい」

 

「はぁ?なんだこいつ」

 

「自分に聞かれてもわかりやしませんよぉ」

 

「良いのですか玉兎様!?」

 

「……なにか問題でも有ると言う気ですか?」

 
 

この玉兎である私の崇高なる考えに対して、地上を走り回る事しか能の無い白兎風情が反論するなどと、烏滸がましいにも程がある。

 

笑顔の仮面は外さぬまま、視線だけを向ける。

 
 

「お黙りなさい」

 

「しっ……失礼しました!」

 
 

萎縮しながら謝罪してくるだなんて……そこまで怯えるのならば、何故私の許可も得ずに口を開いたのでしょう?

 

所詮地上の白兎、という事なのでしょうね。

 

本当に、期待するだけ無駄な存在。

 
 

「私が不問にすると言っているのですから、貴女方白兎は黙って従っていれば良いのです」

 

「了解ですよう」

 
 

こちらの白兎は、まだ物分かりが良い……そう、私にはただ従順に従っていれば良いのですわ。

 

私が間違う事など、ただの一度も無いのですから。

 

そう……私こそが正道、私こそが正義なのです。


「まぁ、不問ならそれはそれで良いけど」

 

「助かりましたあ!ありがとうございますぅ~」

 

「えぇ、私の寛大な御心に感謝するのです」

 

「……あんたすげぇわ、本当」

 

「私は玉兎なのですよ?当然ではありませんか」

 

「……まぁいいや、ほら、次行くよ」

 

「いぃっ!?いきなり飛ばれると負荷がツラいんですからっやめてくださいよもう!」

 
 

飛び去っていく、ふたつの影。

 

……全く、神という存在は好きになれませんね。

 

あの様な態度をとられては、まるで私が無知かのようではありませんか。

 

ふと、視線を感じて振り返る。

 

物分かりが良かった筈の白兎が、不服そうに私を見つめてきていた。

 
 

「……私に、何か?」

 

「……もしかして、ミキ様知らないままで」

 

「その様な事は決して有りませんわ」

 
 

えぇ、在り得ませんとも。

 

私が黒幕を知らないままだった事なんて、ある訳がないでしょう?

 
 
 

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