夢は崩れ現実は有り

Last-modified: Sat, 18 May 2019 23:04:21 JST (1827d)
Top > 夢は崩れ現実は有り

「ここから近いのは……特別森林地区か」

 

「降ろして下さいよぉ、それかほどいて下さいっ痺れどころか感覚がちょーっと無くなってきたんですよぉ」

 

「ほら高度下げるから口閉じな、舌噛むよ」

 

「ちょっ……いたっ木が!木の枝が刺さっいたあいっ!?」

 
 

……なんか、上の方が騒がしいなぁ。

 

目をこらしてはみたけれど、よく見えないや。

 

隣に居る史徒の肩を叩きながら、もう片方の手で声の元を指さす。


「史徒史徒!アレ、見える?」

 

「僕の眼鏡は一体何だと思っているのだね?」

 

「え、メガネだけど……メガネじゃないって事?」

 

「……雷火、君に聞く僕が間違っていた」

 
 

はぁ、と大きくため息をつく史徒。

 

なんでそこでため息つくの!?

 

頭の中にはてなマークが飛び交っている間に、上に居たっぽい2人が目の前に降りてきた。

 
 

「おらっ謝るんだよ早くしろ」

 

「お尻蹴られるのつらぁい!」


えぇ……。

 

いきなり視界に広がる、暴力的な光景にドン引きが止まらない。

 
 

「……何なのだね、アレは」

 
 

透明マントを頭から被ったのか、史徒の姿は見えず声だけが聞こえてくる。

 

私だって知らないよ!……と答えようとしたら、破損壊の神様が答えを教えてくれた。

 
 

「あれ?楓とモルモットじゃん」

 

「モルモットではなくモルフィウム・パンタイクロイですよ?気軽にモルフィって呼んでください!」

 

「じゃあモルフィね、今後ともよろしく」

 
 

手を差し出して握手を求める神様に対して、もじもじと動く……モルフィウム?

 

どう見ても縛られてるから握手出来ないよね……。

 

ニヤニヤと意地の悪そうな顔をした神様が、指摘する。

 
 

「コア=トル、コイツ握手出来ないから」

 

「え?……あ、本当だわ」

 

「あと、お前もコソコソ隠れずにコイツの謝罪行脚に協力しろよ……な!」

 

「Quax!?」


どうやって見破ったのか、透明マントを剥ぎ取った神様。

 

河童語が出てきちゃってる辺り、史徒も物凄く驚いたみたいだ。

 
 

「……お気付きならば致し方無し、最後までお付き合いしましょう」

 

「ありがとうございますっこれで早く終わりますう!あー早く解放されたい!ではいきますね自分が今回の騒動の黒幕でして……」

 

説明を聞いても、私にはよくわからなかった。

 

史徒と神様達がわかりやすく教えてくれた事によると、私はこのモルフィウム、って夢魔に眠らされてたらしい。

 
 

「眠らされてただけならまだしも、夢魔が神様になる踏み台にされかけてたなんて……ちょっとショックだなぁ……」

 

「雷火ちゃん……」

 

「夢魔に対し、君は無力に過ぎない……気にしていても仕様の無い話だ」

 
 

史徒にぽん、と肩を叩かれる。

 

それに対して、破損壊の神様が口を尖らせて抗議する。


「ちょ、ちょっと!私にあんなに何とかしろって言ってたのに何その言い草!?」

 

「解決を要望する事すらも否定するとは……いやはや、神という存在は実に素晴らしいものなのだね」

 
 

カッカッカ、と笑う史徒とは逆に、神様二柱はビミョーな顔。

 

史徒……もしかして、何か悪いこと言ったんじゃないの?

 
 

「河童の皮肉はどうでもいいんだよ、コイツに何かするか?って話」

 

「なにか?」

 

「1発くらいなら好きにしていいから」

 

「うえっ!?まだ痛いのくるんですかっ!?嫌ですいやですうっ」

 
 

そ、そんな事言われても……私、眠って夢を見てただけだからなぁ。

 

内容はうすぼんやりとしか覚えてないけど、楽しい夢だった事だけは覚えてるし……。

 

……うん、決めた!


「私は別にないよ、恨む時間も無かったし」

 

「ふーん、まぁ考えた結果ならいいけど……河童、お前は?」

 

「……1発ならば、本当に問題が無いのかね?」

 

「消滅させるとかは勘弁な、あとロープが切れそうなヤツも」

 

「……ふむ」

 
 

史徒はモルフィウムに近づくと透明マントを被り、姿を消した。

 

何が来るのか、と怯えるモルフィウム。


「……史徒?」

 
 

おかしい。

 

もう、5分はたっぷり経ったはず。

 
 

「……楓、逃げられてない?」

 

「え?……やべっ本当だアイツ居ねぇ!逃げやがったな!!」

 
 

史徒は透明マントを被ったまま、この場から逃げちゃったらしい。

 
 

「史徒、なにも、したくなかったのかなぁ……」

 

「いやそれならそれで言えばいい話じゃね?なんで逃げんのさ」

 

「楓が怖かったんじゃないの~?」

 

「バッカお前……そんな事ある訳ないでしょ!」

 
 

そう言ってがはは、と笑う神様。

 

……ごめんなさい、私もちょっと怖い。

 

だって、破損壊の神様に比べて乱暴そうなんだもん。


「はぁ……まぁ、不問って事なんだろうな」

 

「……ねぇ楓、私は1発お見舞いしていいの?」

 

「いいよ」

 

「ちょっと!自分の話なんですから自分抜きで勝手に話を進めいったぁ!?」

 
 

パン、と頬を叩く綺麗な音がした。

 

破損壊の神様が叫ぶ。

 
 

「モルフィ!あんたねぇ……限度ってものを考えなよ!?」

 

「自分は神になる予定だったんですよ?限度なんて無いに等しい!……に、決まっているではないですか!」

 

「私達神だって好き勝手やってる訳じゃないんだからね!?終わり!」

 
 

……好き勝手してるように見えてたけどなぁ。

 
 
 

もどる メニュー すすむ