煎餅は堅くて海苔付きが良い
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電源の入っていないコタツに入り、煎餅をかじる。
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楓はまた何処かへフラフラとしているみたいで、ここには居ない。
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今コタツを囲んでいるのはリプレと陸、そして私だ。
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樹っつぁんはコタツには入ってはいないものの、そばで正座しながら報告をしてきている。
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手書きで書きこまれた樹っつぁんお手製の資料は、各々の眼前に置かれてはいる。
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……けれど、膨大過ぎて読む気にはならなかった。
「……報告は以上です。対応はどの様に致しますか」
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「樹っつぁんは心配性なんだよ。私達の気まぐれ程度なんでしょ?ほっときなよ」
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「そんな事言わないであげてよ、永住人」
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「そう言われても別に……下級生物の揉め事なんか面倒臭いし……」
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「もう、ひどい事言うなぁ……一応、私はアプローチはしてみるけど……難しいかもね」
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「たとえばなんだが、わたしなら、なんとかなるのか?」
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「可能性は有ると思われます」
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「ふーん……じゃあリプレが行ってくれば?」
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どうせ私は私の領土である「世界の中心点」から出て行ける訳でもないし、人間や妖怪が目覚めなかろうが生きようが何だろうが知った事じゃない。
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勝手に扉の先で増えた生命なんて、私にはその辺に生えている雑草と大して変わらないようにしか思えなかった。
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「行ってくると言ったって……策とかあるの?」
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「こうして、とんでだな……いたっ!」
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「リプレ大丈夫!?」
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「危ない!危ない!」
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リプレが何故か座ったまま飛び上がり、コタツの天板が浮き上がる。
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お願いだから、せめてコタツから出てジャンプして欲しい。
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リプレのパワーだと本気で壊れるし、直すのだってタダって訳にもいかないし。
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天板が浮き上がったせいで床に散っていった煎餅の欠片を拾いながら、樹っつぁんは会話を続ける。
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「リプレさんは比較的多様な神話体系に対応出来ますが、対抗策も打たれ易いですから……難しい所ですね」
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「まぁ、ドラゴンって言うのは倒されるのが見せ場みたいなもんだからね……止めといたら?」
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「でも、このからだがだめになったら、べつのにくたいにとりついてふっかつできるぞ!」
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「いや……神ってのはそういうのも含めて対処出来たりするからね?」
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「そこは……きあいでなんとかする!」
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胸を張って自信満々なのは良いんだけれど、友達が減るのは困る。
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楓が中々帰ってこない上、樹っつぁんと二柱っきりになるだなんて息が詰まって仕方ないし。
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「……陸はだめなのか?」
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「私みたいにハッキリしてても、他の神話体系とは噛み合わないからなんとも……」
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「なら永住人は」
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「私はここから出られないしやる気もありませーん」
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「樹っつぁんなら、なんとかできるだろ?」
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「私に戦闘機能は搭載されていませんので」
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「えっ?付けてなかったっけ!?」
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驚きのあまり、つい叫んでしまった。
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冷ややかな視線が私をじろりと囲んでいく。
「おぼえておくべきだとおもうぞ?」
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「私もそう思うわ……親なんだし」
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「正確には製造者です」
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「そ、そんな事言ったら楓も製造者だからね?それに、楓が付けてるもんだとばかり」
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「楓さんの責任にするのは如何な物かと」
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「うぐぐ……あ、樹っつぁんお茶」
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「わたしも」
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「私もお願い」
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「畏まりました」
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樹っつぁんにお茶を取りに行かせ、取り敢えず私を睨む瞳をふたつ減らす。
「……で、実際対処はどうするのよ」
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「私は何もしないよ、今まで通りね」
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「わたしはたたかうぞ!」
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「私は……相性悪いし、周りが寝ても引きずりこまれないように見回っておくわ」
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見回るだけで相手の手を煩わせるんだから、十分相性は良いと思うんだけど……。
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本当、瑞獣って存在が正義そのものだよね。
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私達神は、そういう点では敵わないわ。
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「あ、そうか、その手があったわ……」
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「お、なんだなんだ?」
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「永住人にちょっと頼みが有るんだけど」
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「え、私?何?」
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「解釈違いを発生させておきたくて」
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「はぁ?まぁいいけど……樹っつぁーん!」
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樹っつぁんに信仰命令系統を追加付与させるために呼びつけると、お茶を持って戻ってきた。
ことり、と各々の前に湯のみが置かれていく。
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「お茶がはいりました」
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「おう」
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「ありがとね」
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「ありがとー」
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ずずっ……と飲み、一息。
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あぁー、あったまるわぁ。
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私がお茶の味の余韻を楽しんでいる間に、陸とリプレはあっという間に飲み干していた。
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「じゃ、早速見回りしてくるね!永住人は準備よろしく、あと樹っつぁん、お茶御馳走様!」
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「わたしも、じゅんびしにいくから、じゃあな」
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樹っつぁんも一緒に飲んではくれず、後片付けを始めてしまった。
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仕方なく、一人でお茶をゆっくりと飲む。
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まったく、こんなにお茶が美味しいのに楓はどこ行ったんだか。