センジョとギョクトと夢と月

Last-modified: Sat, 18 May 2019 20:50:06 JST (1827d)
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しまったよう!

 

ミキ様が、一番出会ってはいけないであろう神と出会ってしまったよう。

 

僕とながしがオロオロする中、開口一番、宣戦布告をぶっ放すミキ様。

 
 

「あら、月を汚そうとする醜い生命が……死んで下さいませんか?当然私の眼につかぬ所で、ですけれど」

 

「ケロちゃん、死んでも黄泉帰ってきちゃうケロいいのぉ?」

 

「……意味を理解出来ぬ浅薄さ、実に気に入りませんわ」

 

「僕が気に入ってもいない妖怪兎なんかに気に入られたくもないケロぉ!」

 
 

笑顔のままとはいえ、手で隠されたミキ様の口角は震えっぱなしだよう。

 

やばい、めっちゃ怒ってるよう……お願いだから怒りを鎮めてくれよう、ミキ様!

 

僕とながしの願いが伝わったのか、咳払いをして冷静を保ってくれたよう。


「こほん……そう言えば、妖怪が突然意識を失うとの噂が有るようですわね……」

 
 

目を伏せ気味にしつつも神様を眼光鋭く睨みつけているミキ様。

 

そんな視線を意に介さずに笑う神様の姿は、まるで対の笑顔になっているよう。

 
 

「戦神にしては卑劣な手段でなくて?」

 

「忠告ありがとケロよ、妖怪兎なんてのは十把一絡げの雑魚妖怪なんだから気をつけてねぇ!」

 

「あらあら、玉兎とそれ以外の兎も理解出来ぬ、更に皮肉の通じない蛙だとは……本当に困ってしまいますわ」

 

「皮でも肉でも餅でも薬でも、何だってケロちゃんは丸呑みにしちゃうだけだよぉ?」

 

「意地汚くて嫌になりますわ、月は何より汚れを嫌うものだといいますのに……ねぇ?」

 

「だから兎もペッペ、って吐き出しちゃうかもねぇ!」


いつ戦いが始まるかもわからない恐怖。

 

月の象徴とも言われている蛙と兎、相性なんて良い訳がねぇよう!

 

後は蟹とか有るらしいけれど……まぁどうでもいいよう。

 

僕とながしは、ミキ様の後ろで控えているけれども背中に伝う冷や汗が止まらない。

 

強者同士の戦いは、当事者達はちょっと戦っただけ、とか思っていそうなのが困り者だよう。

 

巻き込まれるのは勘弁して欲しいんだよう……。

 

ながしがミキ様に抑止を試みる。

 
 

「ぎょ、玉兎様、お戯れはそれ位に……」

 

「何か?」

 

「い、いえ!何でもないです……」 

 
 

ミキ様の目だけは笑っていない笑顔を向けられて慌てて敬礼を返すながし。

 

注意できるだけでも凄いよう。

 

僕はとてもじゃねぇけど死にたくないから言えねぇよう……。


「やれやれ、恐怖政治ってのは嫌ケロねぇ」

 
 

舌を突き出して威嚇しながら肩を上げて首を振り、呆れたポーズをしてくる蛙の神様。

 

正直……ミキ様よりはこっちの方がまだ、まともな気がするよう。

 
 

「官軍しか加護出来ぬ様な劣等生物に何を言われても……響く言葉などは有りませんわ」

 

「官軍につくんじゃなくて、僕がついたから官軍になるんだケロよ?」

 
 

どうだっていいよう。

 

ながしとミキ様の顔を見ると、二匹とも同じ気持ちだったのか同じ表情をしていた。

 
 

「皆してそんな顔しても僕の意見は変わらないケロよ?兎なのにお馬鹿さんだからわからないのぉ?」

 

「いいえ、その様な些事は気にしていません」

 

「なら何が気に食わないケロぉ?」

 

「私は、貴方が卑劣な手段を用いてでも我が月の所有権を主張する事……その事が、気に入らぬだけなのです」

 

「うーん、何か勘違いをしてるケロねぇ……僕は眠らせるなんて、そんな事してないケロよ?」

 

「……眠らせる?」

 

「え?どういう事かよう?」

 

「倒れたのではないんですか?」

 
 

ミキ様が間違いないと言うから二匹して着いてきたのに違うのかよう?

 

ながしと顔を見合わせてからミキ様の顔を見ても、涼しげな笑顔を浮かべているだけだった。

 
 

「……ふふ、敵を騙すならまず味方から、と言うものですから」

 

「凄いです玉兎様!私、すっかり騙されてしまいました」

 

「ワースゴイヨウ」

 

「ふふ、ふふふふふふふ」


ながしは本気で、僕は表情と声を必死にごまかしながら拍手をする。

 

目を閉じて僕達の喝采を聞き、頷くミキ様。

 
 

「えぇ、えぇ……私は気付いていましたとも」

 

「僕は実行犯知ってるケロよ?お願いされたら……ちょっとくらいなら教えてあげてもいいケロよぉ?」

 

「知らぬのにそんな、嘘を吐くだなんて……偽の神ならではの感性ですわね」

 

「ケロちゃんは本当の本当に神様だよぉ、ひどーい!けーろけろけろけろー!」

 
 

泣き真似なのか鳴き真似なのかよくわからない声を上げながら走っていく神様。

 

ながしは単独で追っていい物か考えたのか、ミキ様からの命令を聞く。

 
 

「い、いかがなさいますか玉兎様!」

 

「尋問しますから捕縛なさい」

 

「了解しました!」

 

「了解だよう!」

 
 

ミキ様に命令されたから追いかけるけどよう、なんで追いかけるんだよう?

 

あの神様が嘘を言っているなら、捕まえて尋問しても意味が無い気しかしないんだよう……。

 
 

「待ちなさい!」

 

「待つよう!」

 

「そんな事言われて待つ神様は何処にも居ないケロよ!」

 
 

うわ、逃げ足結構早いよう!?

 

桶に張られていた水に飛び込まれ、盛大に水飛沫が上がり思わず目をふさぐ。


「よ……よう?」

 

「居ない、ですね……一体どこへ!?」

 
 

周辺を見回しても、視界には全く映ってこなければ、耳も幾ら澄ませてようと物音は聞き取れない。

 

ながしと探し回っていると、ミキ様がゆっくりと歩いて追いついてきた。

 

「逃げられたのですか」


「す、すみません玉兎様!そこの桶までは確実に姿を確認したのですが……突然消えてしまって!」

 

「……ならば仕方が有りませんね……その水をお捨てなさい」

 

「え?」

 

「あの蛙は水を媒介して移動する事が可能なのです、ですから、お捨てなさい」

 

「は、はい!」

 
 

ミキ様に言われるがまま、水を捨てるながし。

 

……それは良いけれど、どう見ても誰かが置いておいた水瓶だよう?

 

仕方ない、後でこっそり水を張り直しておくかよう……。

 
 

「拠点を潰す事が出来れば良いのですが……」

 

「はい!是非この私、竹生ながしにお任せを!」

 

「何を言っているのですか?この私が潰す事が出来ないのです、貴方に出来る筈など無い」

 
 

笑顔を浮かべたまま冷徹な言葉を告げるミキ様。

 

そんな態度を取られているのに、失礼しましたと謝罪するながし。

 

何でそこまでミキ様に忠誠を誓えるんだよう?……不思議でたまらないよう。


「ふぅ……私達も、証拠を探さねばならないですね……」

 

「証拠、ですかよう?」

 

「えぇ、私の言う事が正しいのだと証拠を提示しなければ……」

 

「ければ……?」

 

「周囲は愚かな事に、私の意見を聞く事など無いでしょう」

 

「と言う事は矢張り玉兎様は実行犯をご存知なんですね!是非この愚かな白兎にヒントを頂ければ証拠を玉兎様の手に……」

 

「自らの頭で考えるという事を知りなさい」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「私に仕えているのならば……見当位はついている事でしょう?」

 

「は……はい!では行ってきます!」

 
 

絶対ながしもミキ様も何にもわかっちゃいねぇよう。

 

まぁ、僕もわからない事は変わらないけどよう……。

 

ここから実行犯を特定して証拠を掴み、ミキ様の満足のいく形で解決とか無理だよう。

 
 

「ほら、行きますよラバック!」

 

「えぇー……本気かよう?」

 

「本気に決まってるじゃないですか、もう!」

 
 

ながしに呼ばれ、ミキ様を眼下に二匹で飛び跳ねていく。

 

僕も、ちょっと位は頑張るかよう。

 

調べものをするには、多分あそこが一番に決まっているよう。

 

……でも、ここから先は兎会に感知されるとちょっとまずい気もするよう……。


ながしを追いかける振りをしつつ、隙を見て離脱すると耳を澄ませ、辺りに誰もいない事を確認する。

 

端末を上着から取り出し、連絡を試みると、幸い直ぐに繋がり一方的に告げる。

 
 

「……今から向かうよう」

 
 

接続を切ると、僕はホワイトカラーのとある店へ向かう。

 

勝手知ったる顔で奥へと向かい、扉の鍵を開ける。

 

部屋に設置されたポータルに触れて、僕は結界で守られた学校へと足を踏み入れていった。

 
 
 

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