永遠の月の民は眠る事なく
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「……それが、我々吸血鬼において一体何の関係が有ると言うんだ?」
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「そんな事言わないであげてよキッパー、ほら、それにもしかしたら僕がある日突然目覚めなくなるかもよ?」
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「貴様は黙っていろ」
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キッパーに睨まれて僕は黙り込む。
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まぁ、ああは言ってはみたけれど……実際、キッパーの主張は正しい。
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この国は吸血鬼以外も住んではいるけれど、所謂雑魚妖怪と呼ばれる部類の妖怪や人間は正式には住んでいない。
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強いて言うなら僕なんだろうけど、僕も正式にはこの国の住民ではない。
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それに、キッパーの側で過ごしているうちはキッパーからの妖力の影響もあって無事で済む事だろう。
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そんな状況下でギルド長から原因を一緒に探して欲しい、と言われても探す理由はないに等しい。
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「そうは言ってもよ……このままお前等が無事なままだとは限らねぇんだぜ?」
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「現状は無事ではないか、その上貴様の主張は推測の域を出てはいない」
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「確かに、それはそうなんだが……」
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彼は後頭部を掻き、その整った顔はバツの悪そうな表情を浮かべる。
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こうされると、罪悪感が沸いてくるんだろう……普通なら。
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生憎だけれど、僕もキッパーもそんな感性は持ち合わせていないんだよね。
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残念だったね。
「まぁ、気が向いたら探してはあげるからさ」
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……けれど、キッパーがもし眠った時の為の保険は必要だ、絶対に。
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なので、僕個人としては原因を全力で探す、と約束する。
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けれど、言外の意味を理解はしてくれてはいないギルド長は、納得してくれなかった。
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「お前等にも都合とか有るんだろうけどな、俺だって正規の依頼として金を持ってきてるんだぞ」
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そう言って文字通り袖の下から小袋を取り出し、キッパーの執務机に置かれる。
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縛られた紐が重みで緩み、開かれた口からは金貨が大量に詰まっている事が伺えた。
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なら、発する言葉はひとつだけだ。
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「わぁ、凄いよキッパー!手付金でこんなにくれるんだって!」
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「……ならば、契約成立だな」
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「お前ら……マジか……」
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きっと、僕達は今とても悪い顔をしているのだろう。
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キッパーだけだった時はこんな事にならなかったんだろうけど、今は違うんだよ?
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袋の紐を持ち、揺らすといい重みを感じる。
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うんうん、と満足気に頷いている僕とは違い、ギルド長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて言い放つ。
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「お前等、悪魔かよ……!」
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「眷属ではあって悪魔ではない」
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「え?キッパーは悪魔じゃなくて小悪魔、でしょ?」
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右の人差し指を口に当て、片目を閉じて指摘する。
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「貴様は一体、何を言っているんだ……?」
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あぁ、僕の愛がキッパーに伝わらない……なんでだろう?
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その一方で視界の隅に追いやっていた、頭を抱え込んだギルド長は突然叫び出した。
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「……だーっ!畜生!良いぜ、成功報酬にはその三倍はくれてやる!だから原因を探せよ!?」
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「だってさ、キッパー」
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「……一見三聞に貸しを作る事自体は、悪くはないな」
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「あくまで成功報酬だぞ!それに他からも解決法が出てきたら山分けだからな!?クッソおおぉぉ!!!」
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僕達に一方的に、しかも勝手に追加した条件を突き付けると、ギルド長は叫びながら扉を開け走り去っていった。
「……どうする?キッパー」
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「貴様に一任する」
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「僕に?」
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「私は職務が有る、そう簡単に動ける訳が無いだろうが」
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面倒臭いだけの癖に……そういう素直じゃない所もキッパーの魅力のうちのひとつだけど。
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ま、もちろん本気でそう思っていてもキッパーは魅了的だけどね!
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「うーん……じゃあ、早速行ってこようかな」
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軽く伸びをしてチラリとキッパーを見る。
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ほら、キッパー、チャンス!
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僕に心配だな、とか気をつけろ、とか言うチャンスだよ!
……とか期待していたのに、返ってきた言葉は冷たかった。
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「そうか」
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「心配してくれないの?」
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「今直ぐに死にたいとはな」
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「そんなキッパーも好きだよ?」
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「死ね」
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一瞥はくれないのに暴言はくれるだなんて、僕ちょっとかなしい。
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でもそんな様子は見せずに、キッパーに笑顔で手を振りながら部屋を後にする。
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さて、どこから行ってみようかな。