怒る河童と破壊魔女
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「本当に雷火は大丈夫なのかね?」
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「ブラウンも無事なんだろうな!?」
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「もう、同時に言わないでよ!私は一柱しか居ないんだよ!?」
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月のハティの前で揉める私達、一柱と一匹と一人。
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この状況は、私の近所に起因していた。
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月のハティの店主、雷火ちゃん。
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そしてモント・ブラウンの洋菓子店の店主のモントが同時に倒れたという。
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そして、雷火ちゃんとは仲が良い史徒が私の胸ぐらを掴んで詰問してきているのが今の状況だ。
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トゥヴァンはトゥヴァンで、職場に分霊されているモントが倒れたのですっ飛んできたらしい。
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「私だって、何か物音がしたから覗きに行ったら倒れてたから病院に連れていったんだよ!」
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「……其れで病床不足だったと返され素直に帰ってきた、と?」
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「私だって楓が相手じゃなければ無理矢理押し込んだからね!?それに、診察自体本当は無理だったのに受けさせて貰えたんだよ?」
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「ならば入院も無理を通せば良かったのでは無いかね?」
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こ、この河童……私がどれだけ楓と交渉したか知らないな!?
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そんなに言うなら史徒が楓と交渉すれば良いんだよ!
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私じゃなければ絶ッ対!診察すらさせて貰えないね、うん。
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とりあえず、モントの分霊をどうしているのか質問する。
「……トゥヴァン、プシュケの方のモントはどうなってるの?」
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「基本は寝ているだけだな、保健室へは運んでおいたんだが……」
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「2人とも寝てるだけなんだよね?特に他は何も無いはずだし」
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「何も無く目覚めぬのならば、其れは最早仮死状態と言えるのではないのかね?」
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「妖精がそこまで眠って大丈夫なのか?」
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「モントなら放って置いても平気だよ、妖精だからこそ」
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「……して、雷火の方は?」
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「妖怪とは言っても半妖なんだっけ?」
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「後天的に妖怪になったと以前聞いたぞ」
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「って事は、元人間かぁ……」
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そうすると人間よりは頑丈だけれど、栄養や床擦れの危険はある。
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それに、魔力や妖力に対する抵抗も純妖怪よりは低いだろうから……あぁ。
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「……あー、そういう事?」
「おいコア=トル、お前何か知っているのか?」
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私は正体に気付いてしまった……かも知れない。
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でも、もし違ったらまずいし……それに、予想が合っていたとしても私にはあまり出来ることはない。
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「多分、多分なんだけど河童には対処しようがないよ……トゥヴァンも多分無理だし私もちょっと難しい」
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「何が言いたいのかね?」
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「私の予想が合ってるなら、ああいう類は人間の方が有利なんだよ」
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「……何が正体なのかは知らぬがね、我々河童の技術を舐めないで頂きたいものだ」
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「お、おい飛水!どこへ行くんだ!?」
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絞り出すように言葉を私に吐き捨てると、井戸の中へと飛び降りていった。
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恐らく、その技術とやらを持ってくるんだろう。
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「そういう意味じゃなかったんだけどなぁ……」
頑張ったのに詰られるなんて、徒労だなぁ。
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私は大きなため息をひとつつくと、扉に寄りかかり座り込む。
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「おい、立て」
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「今座ったばっかりじゃん」
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「いいから立て!」
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私の前で仁王立ちして、怒鳴りつけてくるトゥヴァン。
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一応であれ何であれ、契約上はトゥヴァンが主人なので渋々立ち上がる。
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「なんなのよもう……」
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「ほら、対処法を探しに行くぞ」
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「そんな事言ってもトゥヴァンに対処は……」
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「無理、であって不可能じゃないんだろ?」
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こういう意味の分からない思考どこから出てくんの?
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トゥヴァンのそういう訳の分からないところ、普段は面白くていいんだけど今は面倒でしかない。
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「……いや、無理と不可能なんて大した差じゃないでしょ」
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「そもそも、お前の予想が外れていたら不可能かどうかもわからないじゃないか!」
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「えぇ……」
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「とにかく!私が探すって言ったらお前も探すんだよ!」
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「はーい……」
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私は箒に乗り高速で飛んで行くトゥヴァンを、仕方なく飛んで追い掛けた。