守り守られる図書館の妖精司書

Last-modified: Sat, 18 May 2019 21:27:24 JST (1827d)
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いつも通り、生徒達を見ながら図書館の棚の上で浮いている私。

 

エスプリーストと……なんだか彼女に似ている、見慣れない妖怪がやってきた。

 

……でも、妖怪を連れているなんて、珍しい事もあるものなんだなぁ。

 

見た目からすると妖怪兎かな?……あ、兎会のバッジ着けてる。

 

いくら自称であろうとも、一応司書としての自負がある私は、訪問者に挨拶をする為入口側まで降りていった。

 
 

「こんにちは、見慣れない顔だけれど……あなたは誰?」

 

「よう?僕はラバックって言うよう」

 

「そうなんだ、私はグノーム!……あなた達、よく似ているけれどエスプリーストの親戚とか?」

 

「義理だけれどね」

 

「そんな水臭い事言うなよう」

 
 

肘でエスプリーストの脇腹を押すラバック。

 

まぁ、彼女の性格からしても不穏な輩は連れて来ないだろう。

 

手近なテーブルへと、二人を案内した。


「何か探し物?ここの本は料理の基本から黒魔術まで揃ってるけど」

 

「黒魔術とかあるのかよう?気にはなるけど、今回は違うし遠慮しておくよう」

 

「魔力変換は勧めないよ?黒魔術ってただでさえ繊細だから失敗しやすいし」

 

「僕が調べたいのは夢についてだよう」

 

「夢?……あの、寝ている時の夢だよね?」

 

「そうだよう、ちょっと面倒な事を頼まれたから調べたいんだよう」

 
 

私が知らないという事は、この学校の外で起きた事なのだろう。

 

ここは厳重な結界で守られているし、学校の敷地内の出来事が私の耳に入らない訳が無い。

 

私より、楓様とかコア=トル様なら詳しそうだけど……あの方も中々連絡がつかないからなぁ。

 
 

「わかった、持ってくるから少し待ってて」

 
 

棚の目星はついているので、浮き上がりながら彼に告げる。

 
 

「グノーム、私も幾つか見繕ってこようか?」

 

「ありがとー!じゃあ私は奥の棚から取ってくるね」


付近の棚はエスプリーストに任せ、奥の棚へ向かう。

 

夢と言われても、夢に関する書物は膨大だ。

 

とりあえず、基本的なラインナップを揃えておこう。

 

本を見繕っていると、棚同士の間に置かれている勉強用テーブルから声を掛けられた。

 
 

「おーい、グノーム何してんだー?」

 

「あ、ほーとー!私、今仕事中だから!」

 

「なんだよー……あ、少し持とうか!?」

 

「じゃあお願いー」

 
 

ほーとーに向かって20冊程本を投げ渡す。

 

勿論、保護魔法や投擲魔法をかけているので床に落ちたりなんてことはなかった。

 
 

「よっ……と!」

 

「ナイスキャッチ!」

 

「まっかせろ!……それで、コレどこに持ってきゃいいんだ?」

 

「入口近くのテーブルまでお願い!」

 

「げ、結構遠いじゃん……気軽に受けなきゃ良かったな……」

 

「もう、自分で一度引き受けたんだから文句言わないでよね」

 

「へぇーい」

 
 

嫌そうに気の抜けた返事をしつつも、入口へと向かってくれたほーとーを見送る。

 

私も、追加で15冊程棚から引き出すと、ラバックの座るテーブルへと向かった。


「はい、これくらいでいい?」

 

「こんなに有るのかよう!?多過ぎるよう……」

 

「頑張りなさい、私も少しは手伝ってあげるから」

 
 

テーブルに突っ伏しているラバックの頭をポンと軽く叩くエスプリースト。

 

見たら、既に10冊以上が机に置かれていた。

 

うーん、持ってき過ぎちゃったかも?

 
 

「お、重い……っと!……ふぅー、疲れたー!」

 
 

ドスッ、と音を立ててテーブルへと本を置くほーとー。

 

気付かなかったけれど、戻る途中で追い抜いちゃったらしい。

 
 

「まだ増えるのかよう!?僕は夢を操る種族について調べたかっただけだよう!」

 

「なら先に言ってくれれば良かったのに……」

 

「夢、と曖昧な事を言うからだよ」

 

「お、おぉ……!」

 

「どうしたのほーとー?」

 

「俺、妖怪兎って初めて見た!」


……それって今の会話で言うこと?

 

私の疑問をよそに、ほーとーはラバックを質問責めにしていく。

 
 

「なぁ、本当に耳って動くのか!?」

 

「よ……よう?そりゃ生えてるんだし多少なら動かせるに決まってるよう」

 

「そうなのか!?じゃあさ、じゃあさ!やっぱり人参は好きなのか!?」

 

「僕は普通だけどよう、知り合いの中には物凄く好きな兎も居るよう」

 

「へー、人参しか食べない!って訳じゃないんだな」

 

「そんなにニンジンばかり食べてたら飽きちまうよう」

 
 

困惑しながらも付き合ってくれるラバック。

 

いい兎なんだろうけど、ほーとーの好奇心に付き合っていたら調べ物なんて終わらない。

 

それに、勉強にその興味を向けたら成績なんてすぐに上がると思うのになぁ……。

 
 

「宝藤、そろそろストップしてくれないかい?私達は探し物をしているんだから邪魔をしないでくれ」

 

「す、すいません」

 

「それ以上気になるのなら勉強しなさい」

 

「……帰りまーす」

 
 

幸い、エスプリーストがほーとーを制してくれたけれど……帰らなくても良かったんじゃないかなぁ。

 

そんなに勉強嫌い?

 

ほーとーが帰って暫くすると、ラバックは耳を立てながら辺りをキョロキョロと見回して誰もいない事を確認する。


「……実を言うとよう……知り合いが寝ちまってよう、起こし方を調べてぇんだよう」

 

「起こし方?揺さぶるんじゃダメなの?」

 

「他人の夢に入り込んで起こすとか言っていたよう」

 

「随分とリスキーな手段だね、他にも方法はあるんじゃないのかい?」

 

「僕だって頭がどうかしてると思ってるよう?でも、そいつの気持ちを尊重してやりてぇんだよう」

 
 

だとしたら、私の持ってくるべき本はあの3冊だ。

 

そのたった数冊を取りに宙へ浮かぶと、エスプリーストは机に有る本の殆どを浮かばせ、各々収められていた棚へ戻るように魔法をかけてくれていた。

 

手早く拾い上げ、エスプリースト達の元へ戻る。

 
 

「ならこの本で足りると思うよ!」

 

「え?こういう事言うのもアレだけどよう……こんなに少ねぇのに大丈夫かよう?」

 

「君の指定した範囲が広過ぎただけだ、最初に目的を言えば良かったのに」

 

「だって、あんまり口外しないで欲しいって止められてるからよう……」

 

「まぁいいさ、早く調べ上げて戻ってやりなさい」

 
 

私のやる仕事は終わったみたい。

 

何も言わず、またフワフワと浮かんでは生徒達に何か起きていないか、見下ろして監視する。

 

あっ、ほーとー帰るって言ったのにまだ居る……ちょっと!持ち込み禁止なのにジュース持ち込んでるじゃん!

 

注意するためにも、ほーとーのもとへと降り立って行った。

 
 
 

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