人間が対処出来る事象は少ない

Last-modified: Sat, 18 May 2019 21:39:22 JST (1827d)
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キッパーさんの城の会議室を勝手に借りて作戦会議をする。

 

メンバーは妖怪兎のマッダー、同じく妖怪兎ラバック、名前を知らないギルド長、人間の医者である俺だ。

 

これでどうしろというんだ……俺は人間だぞ?


「……それで、どうすればいいんだい?」

 

「夢神より強い神に、手伝って貰えば夢神の作った夢でも潜り込めるらしいよう」

 

「夢神より強い、って言ってもな……何がどう強い、とかわからねぇと難しくねぇか?」

 

「そんなのもわからないなら、あのギルドを解体したらどうだい?」

 

「お前俺に頼んでる自覚無い上にギルドは関係ないだろ!お前らこそ誰か心当たり無ぇのかよ?」

 
 

頭がおかしくなりそうだ。

 

大体、神に心当たりある奴なんて居ないだろ……。

 

それに、俺には神とか妖怪とかの違いもよくわかっていない……と言うよりも、理解したくない。

 

この世界自体意味がわからないし、俺をもとの世界に返してくれ。

 

……そんな俺の心中など知らない奴らは、ドンドンと話を進めていく。 


「魔女と住んでるやつはダメなのかよう?」

 

「忙しいって言ってたよ」

 

「蛙野郎は無理か?」

 

「弱そうだから無理だと思うよう」

 

「後は天狗の首領の彼は?天魔だっけ?」

 

「そもそも性格からして絶対無理だな」

 
 

なんでコイツらそんなに心当たりがあるんだよ。

 

やる事も無い俺にとっては、唯々暇な時間だ……。

 
 

「大石は心当たりあるか?」

 

「神に心当たりって言われても……あ」

 

「あるのかい!?是非教えてよ!」

 
 

しまった、俺にも心当たりがあったじゃないか。

 

……そういえば、いまいさんも自称人間だったな。

 

もしや、俺ももう人間ではない何かになっているんじゃ……。

 

首を振って否定する。

 
 

「違う!」

 

「いや何がだよ、神かどうかわからねぇって事か?とりあえず名前挙げてみろって」

 

「あ、あぁ……すまない、気にしないでくれ」

 

「ふぅん、いいから心当たりのあった神の名を教えてくれないかな?僕には時間が惜しいんだ」

 
 

少しくらい気にしてくれたっていいだろう……。

 

まぁいい、あいつなら呼んだ方が早いだろう。

 
 

「……今から召喚する」

 

意味もなく格好をつけながら、胸ポケットから楓の葉を取り出す。

 

掌にのせた楓の葉に息を吹きかけて飛ばすと、そこから暴風とも呼べるほどの強いつむじ風が吹き荒れ始める。

 

風の中にはいつの間にか大量の楓の葉が巻き込まれ、葉で出来たつむじ風になり……その風が収まると、緑青楓が立っていた。

 

何故かソフトクリームを両手に持って。


「……え、何?」

 

「こっちの台詞だ!何で両手にソフトクリーム持ってんだババア!!!」

 

「あぁ!?ソフトクリーム美味ぇだろうがクソガキィ!!!」

 
 

ギルド長と楓がギャンギャンと叫び合う……仲が悪かったのか、知らなかったな。

 

顔をしかめながら眺めていると、マッダーが2人の間に立つ。

 

なんだ、仲裁でも始めるのか?

 
 

「まぁまぁ、キッパーは寝てるんだよ?落ち着きなよ」

 

「いやキッパー寝てるから問題なんだろ」

 

「ソフトクリーム溶けるし食ってていい?」

 

「食べながらでも良いから僕のお願いを聞いてね」

 

「うい」

 

許可されたからって、本当に食うなよ……。

 

両手のソフトクリームを、交互に口に頬張りながら返事をする楓。

 
 

「はいはい、神らしく聞き流してやんよやんよっと」

 

「せめてきちんと聞くだけは聞いてあげてほしいよう」

 

「え?僕は聞いてもらうだけじゃ困るんだけど」

 

「いや……聞けって言ったのは兎、お前なんじゃないの?なんなの?」

 

「兎って……目の前に二匹居るのもわかんねぇ程耄碌したのか?」

 

「どっちでもええわそんなん」

 

「よくねえよう!?こんなロクデナシと一緒にされたらたまったもんじゃねぇよう!」

 

「僕をそんな風に言っていいのはキッパーだけだよ、ねぇ神様?」

 

「知らんがな……うわ手汚れた拭いちゃお」

 

「おいババアやめろ!」

 
 

ダメだ、コイツら我が強過ぎる。

 

こんなのは話し合いではなく、ただ言いたい事を言っているだけだ。

 

何も進みやしないまま、全員が疲れて終わってしまうだけだろう。


「あー……もう、俺がまとめる!」

 
 

宣言した瞬間、真顔でこちらを見てくる4人。

 

……恐怖で変にひきつった笑顔がこぼれ出る。

 

先程まで服を汚されて叫んでいたギルド長が、不敵な笑みを浮かべてこちらを見てくる。

 
 

「人間が妖怪と超能力者、更には神をまとめるだと?大きく出るじゃねぇか」

 

「そ、そうだ」

 

「……まぁまぁ、面白そうだし任せてみようや」

 
 

もう既にソフトクリームを食べ終わり、目を細めて笑う楓。

 

言い様のない不安を抱えつつも、話し合いの場を作り続ける。

 
 

「……まず、この兎の話を聞け。楓の反論は後で聞くから、代わりに他の奴らも口出ししないでくれ」

 

「僕が最初かい?」

 

「それが、多分……一番マシだ」

 

「もう僕の用事自体は済んだし帰ってもいいかよう?」

 

「……多分大丈夫だが、随分急だな」

 

「格上ばっかりで嫌になっただけだよう?あばよう!」

 
 

体当たりしてガラス窓を割り、そのまま落下していく妖怪兎。

 

慌てて下を覗くも、普通に走っていっているように見えるが……まさか、いやいやまさか。

 

そうだ、たまたま運が良かっただけだ、うんそういう事にしようそうしないと俺の神経が保てん。

 
 

「何してるんだいお医者先生?……もしかしてラバックの事を心配したのかい?」

 

「俺の事はいい!はやくお前は楓に話せ」

 

「えぇー……気にしてあげたのに」


最適解では無いが、妥当な判断では有るだろう。

 

途中、うんざりしたり渋い顔を見せつつも全員がマッダーの話を聞いていた。

 

お前らやれば出来るんじゃないか、なら最初からちゃんとやってくれ。

 

俺も楽して生きていたいんだ。

 
 

「……で?もう反論していい訳?」

 

「あー、俺からも補足させてくれ」

 

「えぇ?ガキの言う事なんて信じられないからなあ……」

 

「やんのかババア!」

 

「クソガキが粋がってんじゃねぇぞコラ」

 

「やめろ!お前らが暴れると人間の俺が死ぬ、まず死ぬ!」

 
 

一触即発の二人に割って入り、無理矢理喧嘩を止める。

 

余り良い事ではないのは重々承知の上で俺の命を楯にする事にした。

 

……なにか不穏な言葉が聞こえたのは気のせいだ。

 

絶対に気のせいだ。

 
 

「……ギルド長の補足が先だ」

 

「……あれ、お医者先生、もしかして泣いてないかい?」

 

「いや別に死んでも構わねぇしとか聞こえてないから平気だ」

 

「あー……うん、すまん」

 

「絶対聞こえてないから大丈夫だ」

 

「ガキの癖に人間泣かすなよな、ドンマイ弥彦」

 

「聞こえてないって言ってるだろ!」

 
 

マッダーの話に補足が入り、幾分理解が増したのか時折頷く楓。

 

ニヤニヤと笑ったままなのが気になりはするが、黙って聞いてはいる以上俺も何も言えなかった。


「で、今度こそ終わり?反論して良いんだよねぇ?」

 

「……あぁ」

 

「その間はなんだよ」

 

「面倒な事言ってくれるなよ、と思ってな」

 

「そう言ってもお前、俺達全員の事を面倒臭ぇとか思ってるだろ?」

 

「思ってないが?」

 
 

更に笑みを深くした楓から発せられた言葉は、俺達の内心で思っていた事を深く突いてきた。


「なぁんで、この神たる私が吸血鬼1匹のために動かなきゃいけない訳?」

 

「そ、それは……」

 

「まあ、そうなんだよなぁ……」

 
 

狼狽える俺達に対し、やれやれと首を振るマッダー。

 

自信に満ちた表情で、楓を指差して宣言する。

 
 

「僕がそうまでして助けたいからだよ!もう、何で理解できないのかなぁ?」

 

「私はそうまでして助けたいと思わないから」

 
 

バッサリと切り捨てられてるじゃないか。

 

むしろ、どちらかと言えば楓の言っている事に理があるよな……。


「君がどう思ってても僕はキッパーを助けたいんだよ?」

 

「いやそれこそお前がどう思ってても私には関係無くね?面倒じゃん」

 
 

オウム返ししているという事は、問答も面倒になってきたのだろう。

 

仕方ない、助太刀してやろう。

 
 

「……楓、何か食いたい物はあるか」

 

「もう食べたい物は食べちゃったからなぁ……強いて言えば人間、とか?」

 

「冗談はやめてやれよ」

 

「冗談に見えたんだ?」

 
 

そう言って楓が大きく開けた口の中は異様な暗さで、歯の一本も見当たらない。

 

この中にそのまま吸い込まれるんじゃないか?

 

これは、なにか、見てはいけないものなんじゃないか?

 

恐怖に震え、変に心臓が脈打ち胸元に両手を当てる。

 

俺の動きを見て、楓は口角を思いっきり下げると一歩あとずさった。

 
 

「うっへぇ、何だそのリアクション、気持ち悪いなぁ……萎えたわ」

 

「萎えたところでさ、僕の事は勿論手伝ってくれるよね!」

 

「えっなんで断定してくんのコイツ……」

 

「巻き込まれた時点で諦めろ、な?ババア」

 

「ちょっとクソガキは黙っててくんねぇかな」

 
 

だめだこいつら。

 

誰か、こいつら何とかしてくれ……。


「そういう訳で!私は協力しないからね」

 

「ま、待って!……そんな……っ」

 
 

どこかへと文字通り消え失せた楓と、落胆のあまり頭を垂れる妖怪兎。

 

何とも言えない重たい空気が、俺達を取り囲んでいた。

 
 

「な、何か他の手段があるんじゃないか?」

 

「……ラバックの情報網に関してはキッパーも一目置いてるんだよ?」

 

「だからなんだよ、別の方法がある可能性は十二分にあるだろうが」

 

「ラバックはちょっと特別なんだよ?」

 

「……何が言いてぇんだ?」

 

「とある場所へ行けるんだよ、そこで調べても神の力を使わなくちゃいけなかった、って結論なんだ」

 

「結局何が言いてぇんだよ……まぁ、なら気の毒にな」


俺と妖怪兎を残してギルド長も去って行ってしまった。

 

あの二人、あそこまで冷酷になれるもんか?

 

……といっても、俺にも何が出来る訳でもない。

 

しがない人間に出来る事は、ただただ慰める事だけだった。

 
 
 

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