夢と現実をカエル戦

Last-modified: Sun, 19 May 2019 00:10:53 JST (1827d)
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「さて……これから会う奴と私が会話してる間、黙ってろよ」

 

「いぃやでーす!最後なんですから一番テンション上げていくのが良いと思うんですよね!そう思いません?ねえ?」

 

「神格以外も奪われたいの?」

 

「アッハイすみませんでした」

 

「代わりに拘束は解いてやるから」

 

「本当ですかあ!じゃあ逃げま……?」

 

「動けない様にするから解いたんだっつの」

 

「うべぇあ……」

 

「静かにしろってさっき言ったばっかりだろ!」


向かうは最後の一柱。

 

モルフィウム・パンタイクロイと、緑青楓は特別森林地区の中でも深い森の中へ辿り着く。

 

上着のポケットから、中に入れられていたとは思えない大きさの水入りペットボトルを取り出す楓。

 

キャップを開け、地面へと流していく。

 
 

「さて……ま、こんなもんでいいだろ」

 

「そんなに地面をビッショビショに濡らして何をするおつもりですかあ?全く理解出来ませんねえぇ」

 

「よいしょっ……と!」

 

「ちょっと何投げてくれてんですぅぎゃああっ!?あれ、痛くな……沈むっ!?沈むってどういう事なんでしょう説明してくだざぼぼ」

 
 

自身で作り出した水溜まりへ、夢魔を放り込み自らも続いていく。

 

本来ならば直ぐに硬い地面に触れる筈が、彼女達は水溜りの中へ沈んでいった。


「この行脚の最後はお前だよ、ケイロ」

 

「はぁい、呼ばれて飛び出てケロちゃんだケロよ〜」

 
 

蓮の花が咲き乱れる池。

 

水面に浮かぶ蓮の葉に乗りながらも、また別の葉を傘にしている男が居た。

 

ケイロ、と呼ばれた神は、振り返りにこりと笑顔を向ける。

 
 

「僕の領域に来るだなんて、どうかしたのぉ?」

 

「何で私がお前を最後に回したかわかるか?」

 
 

一方で、険しい表情を見せる神。

 

普段からコロコロと表情を変えてみせる彼女だが、怒りを顕にし緑と青だった瞳の色も、青と金へと変化していた。

 
 

「本気に怒ってる所で申し訳無いんだどぉ……全っ然、わからないんだケロよぉ?」

 
 

質問の体を装った詰問に対し、眉があれば眉尻を下げているであろう表情を返す蛙の戦神。

 

その表情、動き、思考。

 

それら全てが自由の女神の怒りの琴線に触れた。


「お前が黒幕だろうが!」

 
 

指を突きつけ、叫ぶ楓。

 

目を見開いた後、首をすくめやれやれ、と首を振り怒りを煽るケイロ。

 

冷静な判断が出来なくなれば、ミスが起こるであろう事を期待して。

 
 

「何を根拠に言ってるのかわからないよぉ……ひどいケロねぇ、ぐすん」

 

「月の兎が言っていたよ、蛙は真実を知っている、とね」

 

「そんなの、根拠とはとてもじゃないケロ言えないよぉ?」

 
 

片や鼻で笑い、左の口角のみを上げて言葉を放ち。

 

片や両の口角をにんまりと広げて言葉を返す。

 

演技が臭いにも程がある。

 

そうだ、これから起きる事はとても楽しい事なんだ、とお互いに言わんばかりの顔をしながら。


「こんな夢魔が神格を得られるとお前は思う訳?」

 

「うーん、難しいと思うケロねぇ……でも、頑張れば不可能ではないと思うよ〜」

 

「その可能性を上げたのがお前だろ?ケイロ」

 

「なんで僕がそんな夢魔に肩入れしなくちゃいけないのか、わからないケロねぇ……」

 

「この夢魔がもし勝ったら、一番喜ぶのはどの神なんだろうね」

 

「僕は蛙の神様ケロよ?」

 

「戦神である事は捨てたのか?」

 

「……何が言いたいケロ?」

 

「世界を変える程の戦いを司るのはどこの蛙の戦神だって言ってんだよ!」

 
 

世界を変える戦を仕掛けた夢魔。

 

変えるは蛙に通じ。

 

結界で封じられた領域にて、夢が現を丸呑みにしていく事を加護する。

 

神格がある事を神が認めれば、夢魔はたちまち夢神に成る。

 
 

「……バレたなら仕方ないケロ」

 

「なら」

 

「だからって黙ってやられる僕じゃないケロ!……ケーロケロケロ、ケロケロケロ!!」


ケイロの声に合わせ、水面から浮き出てきた蛙達による合唱が始まる。

 

合唱しながら楓とモルフィウムを取り囲み、食らってやろうかと言わんばかりに舌を突き出していく。

 
 

「え、な、何ですかコレはっ!?ケイロ様、自分は助けて下さるんですよね?なんで一緒にやっつけようとしてくるんです、ねえどうしてですか!?」

 

「助けてもらえる理由に心当たりがあるんだ?モルフィウム・パンタイクロイ」

 

「あっ……」

 

「こういう時にベラベラと喋っちゃう悪い手駒は、敵ごと丸呑みにしてあげちゃうだけだケロよ?」

 

「そ……そ、そんなあ!言われた通りにしていたではありませんか!何故ですっ何故なのです!?」

 

「……本性顕したね、クソガエル」

 

「そんな蛙聞いた事ないケロよぉ!」

 
 

騒ぎ立てる蛙達へと楓の葉が無数に放られ、無理矢理水底へと沈められていく。

 

運良く楓の葉を呑み込み、水面に残る事が出来た蛙は、神格を帯びてより強き声を上げていく。

 

そこに、更に枚数を増やされた楓の葉がまた蛙を押し潰してはまた蛙が浮かんでいき。

 

ケイロの操る蛙が勝利の声を上げるが先か、楓の操る葉が自由を奪い尽くすが先か。

 
 

「おいモルフィウム!お前も少しくらい手伝えや!」

 

「そんな事言われても無理ですよお!今の自分に出来る事なんて有りませんし!?」

 

「役に立たない兵を抱えていても無駄なだけケロよ〜?大将一騎打ちがオススメだよぉ」

 

「無駄か、どうかは!……ぐぎぎぎぎ」

 
 

夢魔を両手で頭上に持ち上げると楓の身に蛙が纏わりついてくるが、無視をして背中を反る。

 

その体制から一歩後ろに足を退け、そして。

 
 

「……私が……決めんだよっ!」

 

「えっ何する気ですかイヤーッ!!!」

 

「そんな物理的な攻撃なんてズルゲロォッ!?」


モルフィウムをケイロの顔面に投げつけてケイロが倒れたのを確認する楓。

 

自らの手で腰を労わるその動きは、まるで老婆の様だった。

 
 

「あー、無茶した……腰いてえぇぇ……」

 

「重いケロっ!どくケロよーっ!」

 

「腰が抜けて無理なんですううっ!それに自分だってケイロ様の事……いやもう呼び捨てでいいですね、

 

こんなカエルに一泡吹かせてやって満足でもありますからあ!」

 

「ケロちゃんはカエルの神さまケロ!カエルではないケロ!」

 

「あ、こんなところにいい高さの椅子があんじゃーん」

 

「ぎゃんっ!」

 

「つ、潰れるケロぉ……」

 
 

ギャーギャーと騒ぎ立てる塊の上に座り込む楓。

 

蛙の鳴き声も、大量の葉が舞い散る音も消え、蓮だけが残る。


「……さて、ちったぁ反省した?」

 
 

その瞳からは怒りは失われ、緑と青に戻った双眸で見下ろす。

 
 

「してますう最初から最後までずっとずっとずーっとしてるのにっヒドイじゃないですかあ!」

 

「したケロ!したからどいて欲しいケロよ、このままじゃケロちゃんペチャンコになっちゃうよぉ!」

 

「本当にぃ?」

 
 

楓は両足を振り回し、負荷をかけていく。

 

その動きに呼応して、悲鳴と懇願を上げるモルフィウムとケイロ。

 
 

「いたい!痛いですう!」

 

「やーめーてーケーロー!」

 

「うーん、許してやろうという気持ちになってきたわ……私の自由さに感謝するんだね」

 

「ありがとうございます楓様あんなカエルからアナタ様へ信仰対象も変更いたしますううっ」

 

「心の底からいらねぇわ……ほら、どいてやるからよ」

 
 

反省の塊から飛び降り片足で着地して一回転した後、腕を組んで仁王立ちになる楓。

 

やっと解放された、と安堵の溜息を口から吐く夢魔と蛙神だった。


「もう、今回は負けちゃったケロぉ……もし次に闘う時は投げ対策もするからねぇ!」

 

「ケイロお前反省してねぇだろ」

 

「神に反省なんて二文字はないケロよ!周りにも聞いてみると良いケロ!ケーロケロケロケロケロケロケロ!」

 

「うぉっ」

 

「うわあああああああ……」 


その高笑いは音圧となり、楓とモルフィウムをケイロの領域から押し出していく。

 

抵抗するも、先程やられたばかりの神がまた隙を生み出すような事も無く、領域外に飛ばされていくしかなかった。

 
 
 

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