さぁ!夢を見るのです!
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「さあさあどうぞどうぞ?あぁ、ご自由にお持ちになってくーださいっねえー!!!」
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手元に残っている数少ないカステラを食べながら歩いていると、チラシが上空からヒラヒラと舞ってきた。
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目の前にも落ちてきた一枚を、手に取ってみる。
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書かれている内容が目に入った私は、外だというのに思わず大声で叫んでしまった。
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「アナタの夢……絶対に叶えますっ!?」
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「えぇ叶えますともそうですとも素晴らしいでしょう?ええアナタも絶対に気に入ると思うんですよっそれはもう本当に!」
「きゃぁっ!?」
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急に私の近くに誰かが出てきたから、ビックリしてまた叫んじゃった。
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みんなが私達の事、見てるよ……ちょっと恥ずかしいな。
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「アナタにも叶えたい夢が有ったりするんですよねぇそうですよねえ!ええっそうでなければ大声で叫んだりしないですものね!」
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「う、うん……そうだけど……あなた、誰……?」
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「いやあこれはこれは!大っ変失礼致しましたっ!」
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ペチーン!とすごい音を立てておでこを叩く謎の……人じゃないよね、白目が黒いし……。
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おでこ、真っ赤になってるけど大丈夫なのかなぁ、強く叩き過ぎだと思うんだけど。
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「自分、モルフィウム・パンタイクロイと言いますぅ」
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「私は踊場ウタコ。アイドルやってるの!」
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「げえっ、偶像!?アナタ実は崇拝されてるだなんて……そんな顔して中々やりますねぇ!」
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「偶像じゃなくてアイドル!」
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「アナタは人間に見えて偶像、自分は妖怪にみえて夢神、うんっ中々縁が有るとは思いません?」
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なんか、全然話が通じてない気がする……。
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「そうそう、気軽にモルフィって呼んで下さいねっモルフィですよ、お間違え無く!」
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「モルフィ……さん?」
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「別に呼び捨てで構いませんよお!気軽に崇拝、気軽に信仰、気軽に侵略がモットーでもなんでもないですけど」
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「言ってること、私にはよくわからないんだけど……」
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「まぁまぁ崇拝されてる者同士仲良くしましょうよぉ、夢をなぁんでも叶えてさしあげますから!」
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「なん、でも……?」
本当に何でも叶うのかな。
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なんでも、叶うんなら……。
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「なんだか随分と深刻なお顔ですねぇ、実に難儀な願いのご様子……ですがご安心ください!自分の夢は何でも願いを叶える事が出来るのですから」
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「本当?」
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「この自分、どこをどう見ても嘘をつくなんて、そぉんなように見えますかあっ?本当に!?」
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「……」
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……ごめんなさい、とっても嘘つきに見えるの。
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あまりに失礼だから、黙っていたらスルーしてくれた。
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よかった……。
「ささっアナタのお家にご案内してください!その方がアナタの身の為ですからねっ!」
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「えっ……それは」
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うーん、初対面のモルフィさんをお家に呼ぶのは抵抗あるなぁ。
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住所がさっきのチラシみたいにばら撒かれちゃったりしたら……ダメダメ!とっても困っちゃう。
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あ、でもファンの人たちからカステラもらえたり……いや、やっぱりダメかな。
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「なんならこの場でも構いませんよさあさぁ!自分の両目を見つめていてください!」
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じっ……と見つめていると、急に頭がクラクラしてきた。
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それに、ぼーっとする……。
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「そおれそおれー!」
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まぶた同士がくっつくのを止められない。
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あぁ、ダメ……このまま、寝ちゃう……。
「さあ、お眠りなさいまっせー!夢を現にしてさしあげるまでの辛抱ですからあああぁぁぁぁ……」
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「あっ!ウタコちゃんがお外なのに寝てる……」
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意識がなくなるまでの間に、聞こえたのはその二言だった。