中心点の座標の求め方

Last-modified: Sat, 18 May 2019 22:52:17 JST (1827d)
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俺はネバームーンから、第一第二病院へ帰る途中だったはずだ。

 

……ここは、一体どこだ?

 
 

「妖怪は人の手によって討たれるもの、神は人の手によって象られるもの……よく出来てるよねぇ、本当」

 

「あっそこの人間助けろ!この夢神たる自分を助けなさいっ!」

 

「夢魔でしょ夢魔」

 
 

いつもの動きやすい服装になっている楓と、縛られている夢魔だかの姿と声。

 

絶対にすべての事情を知っているであろう楓に、問いをぶつける。

 
 

「おい、ここはどこだ?俺は何をされた?お前は何をしようとしているんだ?」

 

「まぁまぁ落ち着けって、全部答えてやるから」

 
 

全部?

 

珍しいな、何も答えない事も良くあるというのに……。


「ひとつめ、ここはどこか?答えは簡単、世界の中心点の点の中」

 

「は?」

 

「ふたつめ、何をされたか?点の中に入る自由を与えた……というより、点の中から出る自由を一時的に奪った」

 

「いや、ちょっと待……」

 

「みっつめ、何をするか?妖怪退治をお前にさせるんだよ」

 

「今までの答え全てに説明が必要なんだが!?」

 
 

まず世界の中心点ってなんだ。

 

その上に点の中ってどういう事だよ?

 

自由を与える?

 

自由を奪う?

 

何を言っているんだコイツは。

 

そもそも俺に妖怪退治をさせるって意味もわからない。

 
 

「お前がコイツを倒す、って事だけ理解しとけ」

 

「イヤです!殺さないで下さいよおっ!」

 

「それはこの人間次第だから」

 
 

そんな表情をお互いから向けられても困る。

 

俺は、そもそもこういうトラブルに関わりたくない。

 

こういうの、精神的に無理なんだよ!


「……それは俺でなければ駄目なのか?」

 

「いや、誰でもいいけど?ただ、人間の信仰を受けた神の加護を受けた人間で手頃なのが弥彦、お前なだけ」

 

「……意味がわからん」

 

「理解しなくていいって言ったんだから問題ないね」

 
 

この夢魔を退治する理由は、わからなくもない。

 

ウタコさんだって……そうだ、ウタコさん!

 
 

「ウタコさんはどうなった!?」

 

「大丈夫だ、コイツの力が失われた瞬間目覚めてるよ」

 

「何で言い切れるんだ?ちゃんと確認したのか?」

 

「コイツが所詮妖怪だからだよ」

 

「はぁ……?」

 

「さて、その胸ポケットの物を出しな」

 

「急になんだ……?」

 

「吸血鬼からもらったモンと私の依代だよ、はやく」

 

「はやくって……これか?」

 
 

右手でゴソゴソと漁り、楓の葉とキッパーさんから貰った金属製の蝙蝠を取り出す。


「そうそう、これをちょいちょいっと細工して……」

 
 

そう言いながら楓は俺の手から奪い取り、蝙蝠を楓の葉で包むと手を握る。

 

手を開き俺の手の平に戻されたそれは、青とも緑ともつかない色に変わっていた。

 
 

「それを握り込んでこの妖怪を殴れ」

 

「いや、そんな事を急に言われても……」

 

「やめ……やめて下さいお願いしますよ本当に!痛いのも苦しいのもいやですううう」

 

「ほ、ほらこう言ってるし暴力は」

 

「殴れ」

 

「ねえ?こんな事やめましょ?そうだ助けてくれたらお礼しますよ!」

 

「そしたらお礼参りしてやんよ……そうそう、お前にひとつ聞いておこう」


しゃがみこみ、視線の高さを夢魔に合わせる楓。

 

何を聞くつもりだ……?

 
 

「……自由にやるの、楽しかったか?」

 

「ええ、楽しかったですよ?勿論ですとも!」

 

「そう……自由ってのは、私の領分なんだよ」

 

「え?どういう意味で……」

 

「自由を司っている神たる私は、お前に自由を与えたつもりは無いって事だよ。もう喋らなくていい」

 
 

上着を翻し、今度は俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。

 

身長が近かった覚えは無い、とかどうでもいい事ばかりが浮かんでは消える。

 

……その人間離れした瞳を、直視したくない。

 
 

「さぁ、人間よ……夢魔を助けて死ぬ、夢魔を殺して助かる……お前は一体どちらを選択する?」


……なんで俺がこんな事に。

 

俺は、ただ父の病院を継ぎ、院長になるだけの簡単な人生だったはずなのに。

 
 

「ほら、選べよ、選ぶしかお前には無いんだよ」

 
 

その声につられる様に足は動き出し、夢魔の前に立つ。

 

俺の右腕は、吸い込まれるように夢魔の左頬を殴り飛ばした。

 
 

「……ぃ、いっだあああああ!?」

 

「へぇ?人間の考える事は本当に面白いねぇ!」

 
 

笑みを浮かべつつも、その緑と青の瞳はじとりと見つめてくる。

 

何とも言えない恐怖に押し潰されそうになるが、虚勢を張る。

 
 

「な、何が言いたい」

 

「いやぁ、お前の思った事が結果になるようにしただけだよ」

 

「……?」

 

「お前がコイツを殺して助かりたいのならばその様に、自分自身が死んででもコイツを助けたいならその様に、って具合にね」

 

「つまり、どういう……」

 

「弥彦、お前はどちらも選んでどちらも選ばなかったんだよ、でもキツい一発くらいは加えてやりたかった、と……」


「ふふっ、ふはははっははは!!!」

 
 

腹を抱えて笑い転げる楓。

 

俺は、何かを選んだつもりは全くなく、まるで、傀儡か何かの様に体が動いただけだ。

 

そして、夢魔が殴られて……。

 

一体、それの何がおかしいんだ?

 
 

「いやー、涙出てきちゃったわ……さすが私が面白いコンテンツとして見出した人間!自由を司る私に対しての反逆!命賭けて選択する自由に対して命を賭けず選択もしない自由をぶつけてくるだなんて最ッ高だよ!大石弥彦!」

 
 

人間の様に見えても、コイツは人間じゃない。

 

その恐ろしい笑顔を見て、確信する。

 

……もしかして、俺は、何かとんでもないモノに目を付けられたんじゃないだろうか?

 
 

「……恐ろしい」

 

「……神ってのはこういうクズばかりですよ、自分が利用するばかりで利用される気は更々ない!だから自分が変えてやろうとしたのにっ!盛大に邪魔してくれやがりましたねっ許しません!」

 

「あ?うるせぇなぁ死なないだけ感謝しろよ!弥彦の分はこれで終わりだよ」

 

「えっもう痛くないんですか!やった解放して下さいますよね!?ねえっ!」

 

「お前手首サイボーグか何かか?私のは別だから」

 

「そんなあぁ……」

 
 

項垂れる夢魔に対し、ニヤニヤと笑いながら小突く楓。

 

……今すぐこの場から去りたい。

 
 

「おい、ここから出してくれ……」

 

「あーごめんごめん、じゃあ病院の仮眠室にしてやるよ……面白いもん見れたしサービスしてやんよ」

 
 

突然目の前で手が鳴らされ、思わず目を閉じる。


目を閉じていた時間は一瞬の筈だったのに、もう俺の体は第一第二病院の仮眠室のベッドの上に座っていた。

 
 

「……楓には逆らわないでおこう」

 
 

いまいさんの人外が嫌いという気持ちが、少し理解できた。

 
 
 

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