ザコが板についてきた

Last-modified: Sat, 18 May 2019 22:02:09 JST (1827d)
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……ラバック、一体どこに行ったんでしょう……もしかして、また迷子ですか?

 

仕方ないですね、一匹でもどこかに有力な情報が無いか探す事にしましょう。

 

あぁ、でも……もし私が一匹で解決したら、玉兎様は褒めて下さるでしょうね!

 

その時を思うと……ふふ、つい笑ってしまいますね!

 
 

「待ちな」


「うっぐぅっ!?」

 
 

突然後ろから服を掴まれ、首が締まって変な声が出る。

 

全身を右に向け、半ば無理矢理振り解いて相手から間を取り、せき込みつつも呼吸を整えていく。

 
 

「げほっ、こほっ……ふぅ」

 
 

呼吸が落ち着いたところで相手を睨みつける。

 

その風貌を見て、人間もどきだと理解する。

 

この可愛い白兎の私に何て無礼な事をするんでしょうかね、この人間もどきはっ!

 
 

「聞きたい事が有るんだけど」

 

「お断りします」

 

「……殴られなきゃ理解出来ないタイプ?」

 

「人間もどきが私に敵うとでも?」


どちらが先に手を出すか、先に手を出されたらどのように対処するか……。

 

お互いに相手に対し素手で構えたまま、一陣の風が吹く。

 

スカートが捲れ上がりそうになり、互いに自身のスカートを思わず抑える。

 
 

「うわっ」

 

「きゃぁっ」

 
 

……気まずい上に戦う気もなくなってしまいましたよ……。

 

幸か不幸か、向こうも同じ気持ちだったようでした。


「大石って人間の医者、知ってる?」

 

「大石……?」

 
 

私の記憶にはない名前ですね……。

 

どうせ弱くて愚かな人間でしょうし、覚える価値も無いでしょうけど。

 
 

「あー……下の名前……そうそう、弥彦だ!大石弥彦ならわかる?」

 

「ヤ、ヤヒコ!?」

 
 

「ヤヒコ」……あの玉兎様が、恩義のあるコア=トル様の次に苦手とする人間の名前だ。

 

なんでも、以前揉め事が有った時の相手の名前がヤヒコ、だったとかどうとか。

 

あまり教えてくださらないので、細かい事はよくわからないですけど……。

 
 

「はぁ……知ってるのに嘘吐くとかさ……本っ当、人外って信用出来ないよね」

 

「なっ……あ、アナタが最初っから名前をフルで言えば良いんじゃないんですか!これだから嫌なんですよね人間もどきは」

 

「その人間もどきっての、やめてくれない?あと大石の居場所も吐け」

 

「知ってます?私達白兎は白兎以外の頼みは聞かなくても問題無いって決まりが有るんですよ」

 

「あっそ」

 
 

上着のポケットからナイフを取り出し、突然自らの腕を切りつけて血を地面へと垂らしていく。

 

……いや、実際は垂らすなんてかわいいレベルではなく、文字通り流血だった。

 
 

「ひっ……な、何考えてるんですか!やめてくださいよ!」

 

「ちゃんと考えてるけど?」

 
 

確かに見れば、傷口から流れていく血液がみるみるうちに固まっている。

 

ほう……と感嘆していると、剣と言えなくもない不恰好なそれを突如私の胸に突き付けてきた。


「……ッ」

 

「協力しな」

 
 

この白兎の私が、人間もどきからの脅しに屈するとでも思っているのでしょうか?

 

こんなの無視です、無視無視。

 
 

「……」

 

「刺すよ」

 
 

半歩進んでくるので、思わず半歩退がる。

 

背中を変な汗が垂れたのは気のせいです……こ、怖くなんかないですから!

 
 

「まぁ情報をくれようと、くれなかろうと刺すけど」

 

「ええっ!?そんなのって酷過ぎます!」

 
 

しまった!思わず反論してしまいました。

 

……ま、まぁいいです、これはただの私のこだわりでしたし?

 

しかしこの上で脅しに屈するのはイヤですね……。

 
 

「私の持ってる情報と交換ならどう?」

 

「イヤですね、お断りします」

 

「……人参」

 

「え?」

 

「人参もくれてやるよ……今回だけだけど」


苦虫を噛み潰したような表情で交渉してくる人間もどき。

 

屈するのは……でも情報とニンジン……ニンジン……はっ!

 

これは交渉です。

 

そう、交渉だから脅しに屈した訳でも買収された訳でもないんです!

 
 

「良いでしょう、ラバックは彼と顔見知りのようなので掛け合ってみますよ」

 

「ほい」

 
 

早速3本のニンジンを受け取る。

 

こりこりこり、とニンジンを小気味よい音を立てながらかじり、ラバックへ特殊な音波を送る。

 
 

「ながしー、どうしたんだよーう!?」

 

「随分早かったですね」

 

「うわっ人間もどきだよう!」

 

「お前に聞きたい事がある」

 

「よよようっ!?」

 
 

私と同じように胸に血の剣を突き付けられるラバック。

 

驚いてはいるものの、恐怖は感じていない様子……その胆力が、羨ましいですね。


「大石弥彦ってのを探してるんだけど、居場所知ってる?」

 

「え?ネバームーンの城にいる筈だよう?」

 

「なんでそんな吸血鬼の根城に……」

 

「別にそんなのどうでもいいじゃないですか!取引ですよ、アナタの情報も渡して下さい!」

 

「……はぁ」

 
 

大きなため息をつく人間もどき。

 

まるで、私たちが無理矢理情報を得ようとしてるみたいじゃないですか……一体、取引を何なんだと思ってるんですかね?

 
 

「……今回の原因、知ってる?」

 

「知ってるよう」

 

「し……知ってますよ!当然じゃないですか!」

 

「対処法は」

 

「知ってるよう」

 
 

ラバック、いつの間にわかったんですか!?

 

なんでコッソリ教えてくれないんですか!もう!


「……結局君も神々の力を頼らざるを得ないって事かよう?」

 

「黙れ」

 

「ようっ!?」

 

「ラバック!」

 
 

胸に当てられた剣とは別に、顔にも剣を突き付けられるラバック。

 

……片方ならば私で抑えられても、両方は無理だ。

 
 

「……次会った時は死を覚悟しな」

 
 

剣を捨てると走り去っていく人間もどき。

 

た、助かりましたね……2匹して腰が抜けて立ち上がれない。

 
 

「あ、危なかったよう……」

 

「ラバック、気をつけて下さいよ、もう!」

 
 

何に気をつけるのか、私もわからないままに怒鳴りつける。

 

液体に戻り、地面に吸われていく血液。

 

私達がようやく立ち上がり、去っていく頃にはどこにも血液の痕跡が無かった事には気がつかなかった。

 
 
 

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