まいまい人外絶対殺すbot

Last-modified: Sat, 18 May 2019 21:58:29 JST (1827d)
Top > まいまい人外絶対殺すbot

人間とは全くもって異質の気配を察知する……つまり、これは人外の気配だ。

 

空を見上げ、気配のある方向を睨みつけて監視していると、訳の分からないシルエットが見えた。

 

これは……人間が、人外に捕まっているのでは?

 

気が付いた瞬間、地面を強く蹴って跳び上がり、両腕に抱え込まれた人間との隙間を縫い人外の脇腹に回し蹴りを与える。

 
 

「ぇ、ちょっ……とおぉっ!?」

 

「おい、お前!一体何をしている!まさか私の前で人攫いをしようだと!?我々人間をなめるな!」

 
 

相手はバランスを崩したものの、空中で体制を立て直し着地したようだ。

 

間合いを取りつつ舌打ちを飛ばし、捕まっている相手が誰なのかを観察する。

 

捕まっているのは……ウタコっちにスリートちゃん!?


「あっぶな!私じゃなければ2人とも危険に晒してたよ!?」

 

「あ……っ」

 

「もっと考えて行動しなさいよ!」

 

「……よ、妖怪に説教される謂れはない!」

 

「まって!ちがうの、いまいお姉ちゃん!」

 

「……え、違う?」

 
 

スリートちゃんから事情を聞くと、どうもスリートちゃんとウタコっちを助けた……らしい。

 

一応、謝って感謝しておくか……たまたまにしろ何にしろ、助けたのは事実なんだから。

 

不服だけど。

 

納得してないけど。

 
 

「申し訳ない……それと、ありがとう」

 

「……そこまで嫌な顔するなら無理にしなくていいよ?気にしてないし」

 

「おばっちょりんさん、そんな事言ったらダメですよ!ちゃんと謝らないと師匠だって許してくれないですもん!」

 
 

……私よりずっと年下のスリートちゃんに言われてしまってはかなわない。

 

腰を曲げ、顔を真下に向ける事で相手へ表情を見せないようにする。

 
 

「本当に、申し訳なかった」

 

「いいよいいよ、そんな畏まって謝罪されてもその方が困るっていうか……あ、スリートちゃん、鍵開けてもらっていい?」

 

「はい!」


彼女が鍵を開ける為に離れた隙に、小さな声で忌々し気に話しかける。

 
 

「ウタコっちが倒れた原因は?……人外に聞くのは途轍もなく癪だけど」

 

「……多分夢魔だよ、取り込まれたっぽい」

 

「夢魔だって?」

 

「そう、夢魔」

 
 

夢魔は雑魚妖怪の筆頭とも呼べるほど弱かったはず。

 

夢の中ならまだしも、現実に干渉出来るような力などないし、少し抵抗されれば夢からも追い出されるような存在だ。

 

まさか……私を騙しているのか?

 

疑心暗鬼になっていると、スリートちゃんが扉のそばから大声で話しかける。

 
 

「カギ、開きましたー!」

 

「ありがとうスリートちゃん……それで、彼女はどこに寝かせればいいの?」

 

「こっちです!」

 

「……って訳で、ちょっと待っててね」

 
 

ばたん、と閉められる扉。

 

その間に、ウタコっちが夢魔に取り込まれてしまう様な、強い願いを思案する。

 

……カステラ?

 

いやいや、いやいやいや。

 

大石に聞けばわかるだろうか?

 

だけどあの男、ファンだから変にショック受けそうだしな……。


「おまたせ」

 
 

呼び掛けられて、相手が戻ってきた事に気づく。

 

しまった、油断していた。

 
 

「ッ!……待ちたく、なかったけどね」

 

「そこまで怯えなくてもいいじゃない……私は麒麟よ、麒麟の芹沢陸」

 

「……お前が本当に麒麟なのか証明できない以上、私の名前は名乗らないよ」

 

「警戒心激しいなぁ……まぁ、あんまり私達みたいなのを信頼しても良くはないけれど」

 

「お前の目的は何だ?一見人間の味方の振りをしているようだけど……何かの企みがあるからか?」

 

「ないない、ないって!私、瑞獣だよ?私は伝言をして欲しいだけだから」

 
 

伝言……呪文かなにかか?

 

彼女が本当に瑞獣ならば、その妖力も桁違いだ。

 

私の口伝てで呪文を発動させる事など、造作もなく行えるだろう。

 
 

「楓って神に、『出てきたらボコれ』って言っておいてくれる?私もそろそろ腹に据えかねてるのよね、アイツの事」

 

「……それを受ける事は、私にとってのメリットは無い」

 

「彼女、ウタコ……だっけ、助けるには楓が必要よ?……まぁ、他の神々が助けてくれるならなんとか出来るだろうけど」


楓と呼ばれている以外の神々……私の知っている限りは、蛙と蛇と天魔か。

 

蛇は……森で河童と魔女に問い詰められていたな。

 

あの魔女の性格からすると、今行っても見られるのは神の消し炭だろう。

 

蛙は……どこに居るかわかったもんじゃない。

 

人間の味方を自称こそすれ、実際は違う。

 

あの蛙にとって都合の良い人間の味方しかしないような奴だ、信用できない。

 

天魔は……私の手に負える相手ではない。

 

いくら私が他の人間より頑丈とはいえ、私の肉体が山の肥やしになる可能性の方が遥かに高いだろう。


「楓なら多分あの医者……なんだっけ、大石?が呼べるはずだからさ」

 

「……」

 

「彼、倒れたあの子の事気に入ってるんでしょ?」

 

「だから?」

 

「楓が断ったとしても全力で説得してくれるだろうし、私の伝言が理解出来ない程楓は話が通じない訳でもないわ」

 
 

私が取るべき最善の手を考える。

 

……私は、もう二度と私の選択ミスのせいで友達を失う訳にはいかない。

 

それが、私の矜持を曲げるような事だったとしても。

 
 

「……わかった、請け負おう」

 

「ただ、どこに彼が居るかはわからないのよ」

 

「大丈夫、その辺の妖怪兎を縛って探させるから」

 

「……優しくしてあげてね」

 

「断る」

 
 

私は周りから見て不自然がない程度に走る速度を上げ、見つけた兎を捕まえる事にした。

 
 
 

もどる メニュー すすむ