優しさは時に仕事を濁らせる の変更点
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「エスプリースト、お客様よ」 #br 「私に客だって?珍しい事もある物だね……」 #br 「僕だよう」 #br #br アイシーンがこの保健室へ連れて来たのは、生徒でもなく、職員でもなく、この学校の誰でもなく。 #br 滅多に会う機会のない、妖怪兎だった。 ---- 「なんだ、ラバックか」 #br 「なんだとはなんだよう!まったくもう、酷いよう……」 #br 「……似てるわね」 #br #br アイシーンが私とラバックを見比べて呟く。 #br ……確かに親戚ではあるのだが。 #br #br 「義理の従弟だから偶然だと思うよ」 #br 「まぁ、確かにお互いに似てるといえない事も無いけどよう……?」 #br #br 私はこのプシュケから出る事は少ないので、外がどうなっているのかは知らない。 #br しかし、ラバックがわざわざここまで訪ねてくるという事は、余程の何かが起きてしまったのだとみていいだろう。 #br #br 「それにしても珍しいね、私を訪ねてくるだなんて」 #br 「ちょっと調べたい事が有ってよう」 #br 「調べ物?この保健室に?」 #br 「違ぇよう!この魔女に連れてこられただけなんだよう!」 #br 「エスプリーストの知り合いだって言うものだから、顔を見せた方が良いでしょう、と思ったのよ」 #br 「なんだい、それは……」 #br #br 別に、顔を見てどうこうするような仲でもないのだから、態々顔を見せに来られてもね……。 ---- アイシーンは私の肩に手を置くと、一言告げてきた。 #br #br 「という訳で、案内してあげて頂戴」 #br 「断るよ」 #br 「この僕を迷子にする気かよう……?」 #br #br 震える長い耳に眉尻を下げた上目遣い、そして小さく動く唇。 #br 胸の前で手を組み、潤んだ瞳で見つめてきた。 #br #br 「あー……私にそういう事をしても効果は無いよ」 #br 「なーんだよう、やって損したよう」 #br #br 効果が無いとわかるや否や、すぐに媚を売る事をやめるラバック。 #br 一方、アイシーンはすっかり騙されたのか、目を見開いた後私に小声で話しかけてくる。 #br #br 「……よく見抜けたわね」 #br 「彼が幼い頃から見てきているからね、嫌でも演技かどうか位は見抜けるようになったんだよ」 #br 「それは……あまりいい事ではないわね」 #br 「使える物は使って何が悪いんだよう?」 #br #br 平然と言ってのける様子を見ると、彼の仕事が天職である事を感じる。 #br ふぅ、と溜息をひとつ吐くと、私は椅子から立ち上がりこの部屋の鍵を手に取った。 ---- 「あら、本当に案内してくれるの?」 #br 「アイシーン、君が頼んだんじゃないか……ほら、着いてくるといい」 #br 「ありがてぇよう」 #br 「なら、彼の事よろしくね」 #br #br アイシーンが去った後、保健室から出て鍵をかけ、グノームお手製の外出中札をドアノブに下げる。 #br はぁ、とため息を吐くと、ラバックが心配そうにこちらを伺ってきた。 #br #br 「……大丈夫かよう?」 #br 「……まぁ、彼女に悪意は無いさ、むしろ善意でしかないよ」 #br 「ああいう手合いは直接言ってやらねぇと治らねぇよう?」 #br 「言って治る性格に見えたかい?」 #br 「……ょぅ」 #br #br 伏し目がちに唇をモゴモゴと動かす所作から、私が正しいのは見てとれた。 #br ……本人が気付いて欲しいものだ。 #br #br #br [[もどる>優しさは時に仕事を濁らせる]] [[メニュー>夢魔の変]] [[すすむ>人間が対処出来る事象は少ない]] [[もどる>茜の兎は何見て跳ねる]] [[メニュー>夢魔の変]] [[すすむ>守り守られる図書館の妖精司書]]