C48話

Last-modified: Wed, 22 Jun 2022 21:28:53 JST (696d)
Top > C48話

ラストオーダーの注文もこなし切り、いよいよ閉店の時間が迫ってきた。

客はまばらになり、徐々に店内も静かになっていく。

 

「はー、お腹もいっぱい眼福もいっぱい!アサヒさん成分もたっぷり補給したし、明日からもまた頑張るぞー!」

「私が活力の一部だなんて嬉しいよ、ハニー❤️」

「ご馳走様です」

「おー……」

「……本当に良いんですか?」

 

どうしても気の抜けた返事になったからか、俺の心中を察したからか。

盛り上がった2人をよそに小声で心配してくるシュンさん。

苦笑いと営業スマイルの混ざった顔で言葉を返す。

 

「俺達の方は気にしなくていいっすよ」

「でもやっぱり……」

「むしろ、その分良かったって宣伝してくれりゃ良いんで」

 

こういう風に遠慮されると、逆に困る。

無料だ、と宣言したのに金を取ったらそれは最早詐欺だ。

詐欺はまずい、主に評判や示談金の問題で。

 

「ほら、アサヒちゃんもユウヒくんも無料だって言ってるんだから小さい事気にしないのー!」

 

大きな背中をバシバシと叩く様は見事なまでの酔っ払いだ。

無料になる事は小さかねえけど、言っている事は正しい。

 

「痛いから……」

「あ、ゴメン!無料だからって、飲み過ぎちゃったかな……」

「ハニーにもし怪我なんてあったら一大事だよ、タクシー呼ぼうか?」

「その気づかいが嬉しーいー!」

「そうですね……お願いします」

 

姉貴が直通電話を入れ、5分程でエンジン音が聞こえてきた。

たまたま近い所に居たんだろう。

2人を見送るために、外に出る。

遅い時間の割に過ごしやすい気温だった。

 

「ありがとよ、また来てくれよな」

「今日は本当にご馳走さまでしたー!」

「ご馳走様です」

「ハニー達、また来てくれると嬉しいな❤️」

「行く行くー!絶対近いうちに行くー!」

「ほら、ちゃんと乗って」

 

ハルさんを抑え込みながら席に座らせ、シートベルトを着用させるシュンさん。

即座に窓を全開にして喋り続けてきた。

 

「また明日来るからねー……」

 

叫んでいるかのような大声を張り上げながら走り去っていくタクシー。

俺は乱雑に、姉貴は丁寧に手を振って角を曲がるまで見送る。

タクシーが見えなくなった所で、姉貴に話しかける。

 

「ここはすぐに無料にする、って評判が立ったらどうするつもりだよ」

「え?そういう面倒な事はユウヒに任せるつもりだけど?」

 

俺の明日はどっちだ。