C431話
freeze
計画よりも順調に事が進み、店舗内の清掃は一区切りついた。
少し休憩でもするか、と思っていたら二階からドアの開く音が聞こえた……姉貴が起きたらしい。
時計を見ると既に正午を回っているし、休憩がてらに昼飯にしよう。
急いで準備していたドリアをオーブンで焼き始める。
……そうしないと、姉貴が先に宅配を頼んじまうからな。
br
「おはよう、ユウヒ」
「おう、おはよう。今日の昼飯はドリアだからな」
「……あー、わざわざ作ったの?ご飯なんか作るの面倒なんだし、何か頼めば良かったのに……」
「それが嫌だから作ったんだよ」
「マメだなぁユウヒは」
br
メニューが違うだけで、いつものルーティンと化している会話を終わらせて焼き色がついたドリアを姉貴の前に置く。
フォークとスプーンを用意してやると、いただきます。と手を合わせた後ドリアをしばらく見つめ……溜息をついた。
熱くて食べるのが面倒になりやがったな?
なら明日は何か冷たい物にでもしてやろうか……いや、明日の予報は確か冷え込みがあったはずだ。
寒い中で冷たい物を食べるのは俺も億劫だし、お互いに食べたくねえ物を作るなんて事もあまりしたくない。
確か貰い物の乾麺が残っていたはずだから、明日は温かい蕎麦にでもするか。
br
「姉貴、そろそろ冷めてきてるぞ」
「んー」
br
そう伝えながら俺の分の皿をテーブルに用意して手を合わせる。
br
「いただきます」
「めしあがれー」
「……姉貴は何もしてねえだろ」
「何言ってるの、これから食べるよ」
br
宿題やれって言われた子供かよ。
そう思いつつも黙っていると、姉貴の独り言が嫌でも聞こえてくる。
br
「……さて、フォーク……いや、スプーン……どっち使うか面倒になってきたなぁ」
「ならスプーンだな。フォークの方が掬うの面倒になりそうだし」
「ユウヒはどっちで食べるの?」
「え?俺は元々スプーン派だろ」
「ユウヒだってスプーンで食べるなら、最初から両方なんて出さなくていいのに……」
br
正論を言われて俺が一方的に気まずくなり、スプーンでドリアをすくいとり、口に無理矢理突っ込む。
俺の方はまだグツグツと音を立てているドリアが、口の中を火傷させてやろうと襲いかかってきた。
br
「あっっづ!」
br
慌ててコップの水を飲み干し、もう一杯注いでそれもあっという間に飲み干す。
br
「いつも時間は常に減る物だ、なんて言っているけど……だからって、冷ます時間までケチるのはどうかと思うよ」
「う、うるせえ!」
br
ちょっと涙目になりながら、姉貴の冷めた目線と声に対してはそれくらいしか言い返す事は出来なかった。