突然の狂気は面倒
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ホワイトカラーとは違い、国としての門は無いようだ。
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そもそも、ホワイトカラーも門が有ったのは最初だけなのだが。
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「……何よ、碌に人通りがないじゃない」
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想像していなかった光景に、思わず口から愚痴がこぼれてしまう。
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角張った建物だ形成された街並みには、木製や金属製のシャッターが軒並み閉まっている上誰も居ない。
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昼間の大通りなのだから、もっと活気があっても良いはずだ。
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「……っと、いけないいけない」
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私の本来の目的は一見三聞のネバームーン支部だ。
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さすがにあの規模のギルドならば誰もいないという事もないだろう。
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「ここ……よね?」
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地図で示された場所の建物は、本部に比べると随分とこじんまりとした建物だった。
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それでも十二分に巨大な建築物といえるが。
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「やあ、見かけない顔だけど何か用かい?」
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建物に寄り掛かりながら……兎?随分と長い耳を毛繕いしている細身の男に話しかけられる。
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見かけない顔、とわざわざ言ってくる位なのだから、この辺りの知識に精通しているのだろう。
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笑顔で質問に答える。
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「えぇ、こちらのギルド……一見三聞に先程所属致しました者です」
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「へぇ、ギルド長のメンバーなんだ。大変だと思うけど頑張ってね」
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「貴方もこちらのギルドに?」
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「まさか!」
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一瞬目を見開いた後、嫌にわざとらしい満面の笑みで言葉が返ってくる。
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「そんなの、キッパーが怒っちゃうよ」
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「キッパー……さんとは?」
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呼び捨てにした瞬間、気配が鋭くなったのを察知しさん付けにするが殺気が止まらない。
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彼の地雷を踏んだのかも知れない……。
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「キッパーの事、知らないの?」
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「え、えぇ……残念ながら……」
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「普通さ、ネバームーンに居なくてもキッパーの名前くらい当然のように知ってるよね?何で知らないなんて言うんだい?そんな事がある訳ないのに?僕は君が何を言っているのかわからないんだけどそれって別に僕が悪いんじゃなくてキッパーの素晴らしさを何一つ知らない君の方が悪いよね?」
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誤魔化そうとしたが、無表情で矢継ぎ早に質問をぶつけられ、返事をする間が取れない。
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出来れば事情を隠しておきたかったが、こうなってしまったなら正直に告げた方が良いだろう。
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「……この世界に、最近来たもので」
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「……」
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無表情のまま、数秒の沈黙。
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「なぁんだ!なら、仕方ないよね」
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雰囲気も柔らかくなったので、なんとか乗り切れたらしい。
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適当にキッパーとやらを褒めて、やり過ごそう。
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「キッパーさんというお方は、とても……素晴らしい、お方なのですね」
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「うん!キッパーはとっても良い吸血鬼なんだ!」
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まるで小さな子供かのように大きく頷いて笑顔を向けてくる。
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こういうコロコロと感情を変えてくる手合いは正気を保っていない可能性が高い。
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……あまり、関わらない方が良さそうだ。
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「それでは私はこの先に用事があるので、ご機嫌よう」
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「バイバイ、今度キッパーの事たくさん教えてあげるね!」
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要らないわよ。