怒れる鬼と逝かれた鬼 の変更点

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「あ、竹寺さん」
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マッダーさんに依頼されていたケーキを運んでいると、竹寺文さんと、弟の寸さんを見かけたので話しかける。
マッダーさんに依頼されていたケーキを運んでいると、竹寺文さんと、弟の寸さんを見かけたので話しかける。
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「あら〜こんにちは〜……良かったわ〜、目が覚めたのね〜!」
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「はい、ご心配をおかけしました」
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「心配代として〜、道具のひとつでも買ってもらえるとありがたいのだけれど〜……」
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「……姉さん」
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帽子の影から文さんを睨みつける寸さん。
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キッパーさんもそうなんですが、鬼の方々の眼光って、鋭過ぎてちょっと怖いんですよね……。

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「今度から……気をつけてね、それじゃ……」
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「あら~、寸ちゃんダメじゃないの〜!もっとちゃんとした言い方があるでしょう〜?」
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「そういうの、姉さんがすれば……?」
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「お姉ちゃんはね~、寸ちゃんの事を思って言ってるのよ〜?」
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「……余計なお世話だよ」
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なんだか険悪なムードになってしまいました。
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このお二方、姉弟喧嘩になると色々と激しいんですよね……。
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あっ、今持ち運んでいるケーキはキッパーさんのところへ持って行く特注品ですし、台無しにされては困ります!
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慌てて話題を変える事にしました。
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「そ、そういえばなんですけど!私以外の方も寝てたんですか?」
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「そうだけど……どうなったかは、僕は……知らない」
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「それはね〜、空を見上げてみればわかるわよ〜!」

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文さんの上げた指先に視線を向ける為に顔を上げると、空から何かが降ってきた。
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思わず顔を隠し衝撃に耐えた後、安全を確認する為にも辺りを見渡す。
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土煙の中から、ふたつの人影がぼんやりと見えてきた。
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「ぃよっし!10点10点10点ってとこかな」
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「自分が居る事忘れないで着地して下さいよぉ……でないと地面で擦り下ろされちゃいますうっ」
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「え?あぁ、めんごめんご」
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「あのお、ところで……あとどれくらいで終わるっ!とか教えて貰えたりしませんかぁ?」
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「しない」
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「はあぁ……」
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「溜息つきたいのはこっちだっつの……お、コイツらにはまだ会ってなかったよね」
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「もう疲れちゃいましたよおっ!」
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「まだまだあるんだよ!諦めな!」
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楓さんと……誰?
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その疑問は、即座に解消された。
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「あら〜、あなたが噂の夢魔さんかしら〜?」
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「そうそう、コイツが今回の件の犯行者ね」
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「モルフィウム・パンタイクロイ、アナタの言った通り自分は夢魔ですよぉ〜いぇいいぇい!」

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……という事は、私はあの夢魔に眠らされていた、って事なんでしょうか?
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私の憶測が正しいのかを確かめる為、質問を投げかける。
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「……あの、私の事を眠らせたのも……?」
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「ずっと寝てたならそうですね〜でもいつまでも寝ていれば良かったのに〜なんで起きちゃったんですか〜もう嫌になっちゃいますね〜」
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「お姉ちゃんの事~、真似しないで頂戴な〜」
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文さん、冗談めいて笑っているのに目が本気過ぎて怖いんですが……。
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ひっ、と小さい悲鳴を上げたパンタイクロイさんは、楓さんの背後に逃げ込むとこちらをチラチラと見てきています。
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「あのさ、脅かすくらいなら殴ってやってくんねぇ?」
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「えぇっ!?鬼の一撃とか怖いんですけどイヤなんですけど!?」
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「お前に拒否権は無いって何度言えばわかんの?モントは……弱いし三発くらいまでならいいや」
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「いや、あの……何がですか?」
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「報復」

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「え?」
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サラリと言うものですから、聞き逃してしまいました。
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報復って聞こえましたが、きっと聞き間違いか何かですよね。
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「だから、報復」
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「……聞き逃していませんでしたか」
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「あら〜、それは私もやっちゃっていいのかしら〜?」
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「姉さん……本当に、喧嘩っ早いんだから……」
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グルグルと肩を回す文さんを諌める寸さん。
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あぁ、寸さんは大人だなぁ……と思っていたんですが、やはり姉弟なんでしょうか。
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衝撃的な言葉が飛び出しました。

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「僕の方が……姉さんより、一撃は重いから」
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「確かにそれはそうなのよね〜……良かったわ〜!寸ちゃんったら中々運動しないから~、お姉ちゃん気にしてたのよ〜?」
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「いやそれは何も自分にとっていい事でもなんでもなくて只々悪い報告でしかないんですけども!?」
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「そもそも一発でやめてやってくんない?他からもまだあるから」
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パンタイクロイさんの気持ちもわかります。
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私だって、まさか普段は諌める立場の寸さんがそんな事を言い出すなんて思いませんでしたから。
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静かな怒りを内に秘めていたんでしょうか?
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「なら~、一発ずつにしましょうか〜」
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「……そうだね」
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「あわわあわあわあわわわわーっ!?」
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パンタイクロイさんは楓さんに引き摺られる形で二人の前に突き出されます。
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そして、寸さんが右腕、文さんが左腕を脇腹まで真っ直ぐに引き足を一歩退げる。
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……怖いので、コッソリ逃げ出しちゃいましょうか。
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じわじわと後ろに下がり、視界から外れようと努力する。
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「モント、ちょっと待って」
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「はいっ!?」
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楓さんに声を掛けられ、思わず大声を上げてしまった。
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バツが悪くなり、しどろもどろに返事する。
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「い、いや……その……」
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「あぁ、モントはそこの陰に隠れてるといいよ、巻き込まれるかも知れんし」
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近くにあった建物を指され、しぶしぶ移動する。
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きっと、隠れるフリをして逃げようとしてもバレてしまうでしょう。
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建物の中へ隠れ、窓から様子を覗きながら待つ事にしました。

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「あー……結び目が千切れそうだな、それにキツく縛っておかないとすっぽ抜けそうだし」
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私が隠れた事を確認すると、パンタイクロイさんを縛っている紐の確認をしては調整しているようです。
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案外、ガラス窓一枚越しでも声も聞こえるものですね。
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「飛ぶんですかっ!?本当ですかあ!?」
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「九分九厘飛ぶね」
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「あの、そんな事されたら死んじゃいます!そうだっまだ後があるんですよね?死んだら困っちゃいますよね!ね!!」
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必死で命乞いするパンタイクロイさん。
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悲壮感が滲み出ています、自業自得とはいえ同情してしまいそうですね。
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「大丈夫、ギリギリ程度までは保険はかけてある!」
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「全力で掛けてくださいよおおお」
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あぁ、楓さんが良い笑顔で親指を立てています。
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そういう時に限って物凄い活き活きとしてるんですよね、あの神様。
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「そろそろ良いかしら〜?」
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文さんの声を聞いて、楓さんが指を鳴らすとあれだけ泣き叫んでいたパンタイクロイさんの声が小さくなりました。
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神通力でも使ったのでしょうか?
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「ううぅ……優しくしてくださぁい……」
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「……調整は、難しいかも」
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寸さんが返事をした後、足を踏みしめるとボゴッ!と大きな音が聞こえてきました。
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……寸さんの足元を見ると、地面がへこんでいます。
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文さんは文さんで静かなのですが、以前彼女の全力を見た事があるので知っています。
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足が無い故か、全身の回転を利用したキツい一撃を与えていました。
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その時と同様に、今も左肩が横を向いています。
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鬼の一撃なんて、食らっても本当に大丈夫なんでしょうか。
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楓さんの事なので、うっかり忘れてたわ!ごめんね!と言い放ってもおかしくないのがとても不安です。
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「……姉さん、いくよ」
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「いっくわよ〜!」

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同時に腹に叩き込まれたパンタイクロイさん。
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静止しているので耐え切ったんでしょうか?……と、思っていたら紐を掴んでいた楓さんごと空高く打ち上げられていきました。
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遅れて豪風が吹き、慌ててしゃがみ込むと頭上を破れたガラスが通り抜けていきました。
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……本当に、大丈夫なんでしょうか。
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「……もう、出てきて大丈夫」
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砂煙が収まった頃、寸さんに声を掛けられ恐る恐る外に出ます。
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……地面を見ると地割れが出来ています。
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恐怖のあまり、もう下を見ないようにしながら、ぎこちない笑顔でお二人の元へ向かう羽目になりました。
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「お姉ちゃん久し振りだったからね〜、ちょっとだけ失敗しちゃったわ〜……なんだか恥ずかしい所見せちゃったわね〜」
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「あは、あはははは……」

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顔に手を当てながら照れる文さんですが、あの地割れを寸さんだけが起こした物とはとても思えないんですが……。
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声に出して私があの一撃を喰らう羽目になるのも嫌なので、乾いた笑い声で返す事しか出来ませんでした。
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