C415話 のバックアップ(No.2)
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- C415話 へ行く。
- 1 (2021-01-16 (土) 21:12:04)
- 2 (2021-10-30 (土) 22:10:45)
- 3 (2022-06-22 (水) 21:31:50)
- 4 (2022-06-24 (金) 23:00:27)
あの後、驚く事に姉貴がバータイム切り替えへの作業を手伝ってきたので想定以上に早く時間が空いた。
そこまでしてあの女に聞きたい話って何なんだ?
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「お待たせハニー、立ち疲れてしまったでしょう?さぁ、ここに座って」
「失礼します……アスカちゃん、こんな素敵なお店に来たんだ……」
「申し訳ない、あまり時間が無いから単刀直入に聞かせてもらうね」
「な、何でしょう!」
「……ウタコちゃん、だよね?」
「えっ!?確か覚えてないって……」
「何で私がハニーの事を忘れていたんだろう……不覚だよ……」
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目を閉じて被りを振る姉貴。
このウタコ?って女も感動しているが、どういう状況だよ。
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「おい待てよ姉貴!話が見えねえし、ウタコって誰だよ!」
「ベイビーカステラのカステラ担当、踊場ウタコちゃんだよ」
「そんな奴最初っから居ないだろ」
「だから居たんだって。ユウヒも忘れてるだけで、彼女はテレビにも出演していたよ」
「そんな訳ねえだろ、デビュー時からベビカスはひとりユニットだった筈だ」
「ひとりでユニットっておかしくない?それに、私はウタコちゃんにプライベート中に握手してもらった記憶もある」
「んなもん気のせいの可能性だって高いじゃねえか!大体姉貴は誰彼構わず手ぐらい握ってんだから覚えてなくてもおかしくねえだろ!」
「ユウヒ、私が忘れると思う?」
「さっきまで忘れてたとか言ってやがったのに何言ってんだよ!姉貴まで頭がおかしくなっちまったのか!?」
「ユウヒ」
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俺の名前だけ返してきた姉貴の顔は、俺の方が悪いと言わんばかりだった。
いや、俺は間違ってないはずだ。
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「何だよそれ……知らねえよ……だって、俺は」
「も、もうやめてあげて!私の事はいいの、アスカちゃんがここに来たかどうかだけを知りたいんです!」
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キッチンによろめきながら戻り、椅子へと乱暴に座る。
どんなに言われようと俺はそんな女は知らない。
何でふたりは理解しあってるんだ?
姉貴が話を合わせているだけには、とてもじゃねえが思えねえ。
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「わかんねえよ……」
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今度は俺が目を閉じて、被りを振る番だった。
「いやぁ、あの時はビックリしたな……何で街中で一本丸ごとを?」
「えへへ……カステラが手にあるんだ、って思ったら止まらなくって」
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姉貴とウタコとやらは盛り上がっているが、そろそろバータイムの開店時間も近づいてきた。
それに、一秒でも早くあの女を俺達の店から遠ざけたかった。
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「姉貴、そろそろ開けるから……」
「もうそんな時間?ハニー、申し訳ないけれども……」
「いえ、閉めてる時間なのにお邪魔しました……あの、ひとつだけお願いしてもいいですか?」
「勿論だよ」
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俺はふたりの会話を無視する事で平穏を保つ。
あのふたりは今俺とは違うところで会話をしているんだ、そうに違いない。
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「アスカちゃんが今度来た時、カステラ好きの子が来た、って言っておいてもらえますか?」
「勿論だよ、でもそれだけでいいの?」
「いいんです、それ以上は良くないらしいので」
「……そう、わかった」
「では、さようなら!」
「また今度、来てくれたら嬉しいな」
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ドアが閉まり、俺の準備をする音だけが響く。
……ある意味、いつも通りの音だ。
普段こそ姉貴に手伝えよと言うが、今は逆に姉貴には手伝って欲しくなかった。
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「ユウヒ」
「……悪い、さっきは怒鳴り過ぎた」
「私こそごめん」
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お互いにその先の言葉は敢えて出さない。
また怒鳴りあいになるのがわかりきっていたからだ。
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「……さて、バータイムもよろしくな、姉貴」
「ユウヒもちゃんと接客もしてね?」
「姉貴が間に合わなければな」
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軽口を叩きあってお互いに無かった事にしていく。
そうだ、それでいい。
変にギクシャクして客に心配されるなんてごめんだからな。
特に常連の奴ら、そういうのに敏感だからしばらく弄られるに決まっている。
しかも俺の方だけな!
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「いらっしゃいませ、カフェバーC4へようこそ」
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姉貴の声と同時に、団体客が騒がしく来店する。
こりゃ、変な事考えてる暇はねえな!
これから迫りくる注文の嵐に備えて、準備を進める事にした。
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