C49話 のバックアップ(No.1)


ランチタイムとバータイムの合間の時間。
後片付けも準備も終わってしまい、暇な時間が訪れる。
カウンターのキッチン側に折り畳み椅子を置き、座って背もたれに身を預けながら天を仰ぐ。

「あー……疲れた」

俺だって姉貴ほどではないが面倒臭がりな方だ、休めるもんなら休みたい。
だが、それでやっていける程人生も社会も甘くはない事は理解している……いや、姉貴の世話は別にやらなくてもいいのか?
だからって放っておくって訳にもいかねえし、姉貴がいるといないとじゃ絶対売上が違うしな……。

そんなどうでもいい事を考える、束の間の俺の休憩時間を打ち破る音。
乱暴に何度もドアを叩かれた直後、大きくドアが開かれドアベルもがらん、と大きく鳴る。

「チーッス、お届け物だよん!」

透明なレインコートからでも透けて見えるギャルのような格好に、キャンディ棒を口に咥えている女性が右足でドアを押さえつけ、左腕に荷物を小脇に抱えている姿。
小脇に抱えている……と言っても、荷物はそれなりの大きさと重さにしか見えないが。

「……緋紗子さん、何度も言ってんじゃないすか。もう少し丁寧にドアを開けて下さいよ」

毎度毎度言っているんだが、聞いちゃくれねえな。
ため息と呆れ顔を同時に示すと、苦虫を噛み潰したような顔で返答してくる。

「そんな事言ったらさ、あたしだって何度も言ってるっしょ?ヒサコじゃなくて、ひーちゃん!って呼んでって」
「お断りします」
「つーめーたーいー!アサヒちゃんはあたしの事ヒサコだなんてダッサい名前で呼んだりしないのに!」
「そう言ったって姉貴は誰でもハニーじゃ……あ、荷物はそこのテーブルの上でお願いします」
「よっ……と」

テーブルに乗せられた荷物が軽く音を立てるが、梱包材がしっかりと衝撃を吸収している事も伺える。

「えーと、一応立ち会いで検品だっけ?面倒な事するね、ユーヒちゃんも」
「いやー、一度数量不足で大変だったんで……」

以前、別の業者ではあるがカシスシロップの瓶が1本足りずに届いた事がある。
そして、そういう時に限ってカシス系がよく売れやがる不思議。
それ以来、どの業者相手でも出来る限り立ち会いで検品をお願いさせてもらっている。
お互いに伝票の読み合わせに応じて指を差し、納品物が合っているかを確認していく。

「……はい、以上8本ね!」
「1、2、3……9本目?多くねえか?」
「あ、これは新規ルート開拓に向けて、ある会社から試飲にどうぞ!って」
「へぇ、ひと瓶丸ごとだなんて、面白い試みっすね……」

なかなか重量のある透明な瓶を箱から取り出すと……液色は黄味がかった透明色。
デザインなのか何なのか、元のラベルに書かれている文字は全く読み取る事は出来なさそうだ。
うーん、どこの国の物なのかもさっぱり検討がつかねえな。

「種類揃えて置いた時のデザインは良さそうっすね」
「でしょー、この機会にぜひぜひ!」

俺だけだと評価に偏りが有るだろうし、何より客の需要は姉貴の方が理解度が高い……試飲なら姉貴もいた方がいいな。

「……ちょっと待っててもらっていいすか」
「もちろん構わないに決まってるっしょ!あたしだって取次増やしたいし?ココ座って待ってるよー!」
「……はは」

カウンターに座り、手を振ってウインクしてくる緋紗子さん。
あーあ、なんで俺の周りにはクセの強い女ばっかり集まるんだよ。

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