C422話 のバックアップ(No.1)


夕飯を食べに来た客達が消え、段々と酒がメインの客が増えてきた。
窓のある壁際がいい、と希望を出してきた客なんて御覧の有様だ。

「姉さん……それ、美味しいの?」
「……なら、僕もひとつ……貰おう、かな……」
「ハニー、お姉さんがいるのかい?一目会ってみたいな❤️」
「え……姉さん、今僕の向かいに……座ってるんだけど……」
「……それは申し訳なかったよ、ごめんね?」
「別に……姉さんも、気にしてないみたいだ、し」

一人でぶつぶつと会話をしながら飲食をしているのは、正直薄気味悪い。
二人前以上頼んでいるし、残しそうな様子も無いがそういう酔い方なんだろうか?
他人に迷惑をかけるよりはよっぽどマシだが……。
皿を拭きながら他の客の様子も見ていると、突然大きな笑い声が聞こえてくる。

「クアッカカカカカカカ!!!やっぱり酒と言えばよォ、度数が一番だよなァ!なァ!?」
「そんな事無いよ!美味しいのが一番に決まってるもん!」
「雷火、止めたまえ……」
「アァ?この俺様に反論とは、面白ェ女だなァ……」
「面白い!?私面白くないんだけど!」
「褒めてやってンのに何だァ?」
「私の事は頭いい!ってほめてよね!」
「雷火、本当に止めて呉れたまえ……」
「……河童ァ、面倒な酔い方する奴は後々大変だぜェ?」
「……天魔殿、同情は同情で辞めて頂きたく」

わかりやすい仮装の三人組は、天狗が喧嘩を売る、狼女が喧嘩を買う、河童が宥めるでルーチンでも組んでるのか疑う程同じ事を繰り返している。
これで何度目だ?あんまり騒ぐなら退店を願うが、そこまででもない……という微妙なラインをついてくる。
それでも煩くなる間隔が縮んできている。
それとなく姉貴がノンアルコールのカクテルを勧める頃合だろう。
喧騒の中、ドアが開き挨拶を口にするが、相手の顔を見て途中で止まってしまった。

「いらっしゃいませ、カフェバーC4へようこ……」

黒い布を被っている女の方の顔色が、すこぶる悪い。
まるで、雪山の中を歩いてきたかのような青白さだった。
俺の挨拶が止まったのを聞いた姉貴が、何かトラブルでもあったのかと気づいてすぐに接客へ向かう。

「ハニー……顔色が悪いけど、大丈夫?」
「気にしないで。彼女、ちょっと人に酔いやすいんだ」
「……」

おいおい、グッタリこそしてねえとはいえ、そんな奴を酒の出る場に呼ぶなよ。
カウンターの女装家は酔いが回ったのか急にニヤニヤし出すし、カオスじみてきたな。

「なら、この端の方の席にしようか。何かあったらすぐに呼んでくれて構わないからね❤️」

姉貴が出来るだけ目立たない席へと案内すると、キッチンへと戻ってきて俺に報告してくる。
今回は見てたからいいが、作業してると知らねえままの事もあるからな。

「ユウヒ、私じゃすぐに向かえない事もあるだろうからその時はお願いね」
「おう」

顔色の悪さこそ気になるが、相手の様子や注文の内容からすると、すぐに何かは起きなさそうだ。
一応気にはかけておく、くらいにしておこう。

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