C421話 のバックアップ(No.1)


開店まで後少し。

「ユウヒ、まだダメかい?ハニー達が待ちくたびれちゃうよ」
「あと少しだけ時間あるだろ!」
「そんな事ないけど……あ、もう時間だから開けるよ」

使ったダスターをキッチンのバケツに放り込み、何とか準備を終わらせた。
姉貴が手伝わねえのは、こうやって俺が何だかんだで間に合わせちまうのも理由なんだろうが、少しくらい手伝ってくれたっていいだろ!

「カフェバーC4へようこそ❤️」
「カフェバーC4へようこそー!」

姉貴の挨拶に合わせて声をかけ、いつもより客の格好に着目してみる。
……なるほど、確かに姉貴の言う通り楽しんでみるのも悪くないかも知れない。
楽しむと言っても、キッチンが忙しくなるまでだが。

「せんぱい、私達また一番乗りできましたね!……凄い!なんかこう……中がすごいですね!!!」
「うん、内装が凄い凝ってるね」
「ハニー達のために頑張った甲斐があったよ❤️褒めてくれてありがとう……こちらの席へどうぞ」

この覚えのある大声はフユと、先輩のトウキだ。
キョンシーとミイラ男……アンデッド繋がりか?
普通に歩いている辺り、関節が硬かったりの設定は無視したようだ。
別にそこにこだわる必要も無いしな。

「お次のハニー達は……うさ耳でお揃いなんだね。皆似合っていてかわいいよ❤️」
「このお方が何方かご存知なんですか!?」
「ながし、知ってる訳ねぇよう」
「そ、それもそうですが……兎に角!うさ耳だなんて言わないで下さい!」
「……私は気にしません。えぇ、人間にとっての呼び名が如何であれ、私の価値が損なわれる事など無いのですから
「し、失礼致しました玉兎様!」

次に来たのはウサギの集団だ。
ヤケに姉貴に食ってかかっていたが、そういうなりきるタイプなんだろうか?
そういう行為は身内だけで完結させろよな、姉貴はまだしも俺は着いていけねえし。

「ユウヒ、カウンター希望のハニー達の対応、出来るよね?」
「まあ、なんとか」

次は……何の仮装かはよくわからないが、片方が女装なのは体格からしても確実だ。
もう片方もまさか女装?と思ったが、声色から違う事が伺えた。

「ふむ……メニューのラインナップ、中々悪くナイですね」
「ありがとうございます」
「色々と参考にサセて頂きまショう」

前髪で隠れてはいるが、その視線が鋭い事はわかる。
発言からして、同業者か?ハロウィンイベントに偵察とはやるな……。
だが、近所にこんな奴いた覚えが……まさか、正体がバレないように女装なのか!?
中々出来る奴かも知れない、技を盗まれないように警戒しねえとな。
……とは言っても、盗まれるような技術も無えけど。

「ではまずお先ニお酒を飲んで、味も確かメマしょうか!」
「それって、飲みたいだけじゃないかしらぁ?」
「そんな事は有りマセんよ?でもマサか、一緒に来て下サルとは思いまセンでしたよ」
「私しか予定が空いていなかっただけよぉ?」
「いやイヤそうは言うモノの……あ、本当なんデスね」

同業者だからって他の客と比べて良い酒は出したりしない。
そうやって良い評判を得ても、客側から見てどうかの方が大事だからな。
注文された酒を作りながら、入口にも一応気をかけておく。

「ハニー達、可愛らしい服装だね❤️……おや、そちらは初めてだね。一緒に来てくれるだなんて嬉しいよ❤️」
「アキさんオススメと今朝聞いて、いてもたってもいられず!」
「前にお昼にきた時、お料理がおいしかったから夜は初めてなんですけど来ちゃいました」
「あ、おれ達お酒は飲めないんですけど大丈夫なんですか?」
「もちろんだよ❤️ちゃんとノンアルコールも有るから安心してね」
「流石アキさんオススメのお店!このお店、最高ですね!」
「せめて、せめて食べてから言って」

今度は、何度かカフェタイムに来ていたアキさんと……彼氏か?随分とベタ惚れな様子だな、良い事で。
ふたりの仮装は巫女と騎士と言ったところか。
巫女を守る騎士なんだろうが、個人的には暴走騎士を止める巫女のように見える。
……段々店が混んできて、忙しくなってきたな。
それに、イベントとは言え初見の客が異様に多い気がする。
確かに初見が増えるのは嬉しい事だが、何となく胸にひっかかる物があるな。

「……ヒ、ユウヒ?オーダー!」
「お、おう、すまんすまん」

そんな事より今は目先の事に集中しねえとな。
客からの次々と寄せられるオーダーで、変な考えは霧散していった。
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