突然の一見三聞へ所属 のバックアップ(No.1)
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- 突然の一見三聞へ所属 へ行く。
- 1 (2020-09-05 (土) 00:40:29)
「でっかい……」
ここがロビーなのだろう。
巨大な樹に思わず目が止まるが、周りを見渡すと角の生えたもの、翼をはためかせるもの、浮いているもの……様々な種族が忙しなく動いているのが見受けられる。
「それで、僕がそこで言ってやったんだよ!」
「どうせペッポーの事だからしょーもないんでしょー?」
「そんな事ねーよ!」
「はいはい報告書が大量に通るっスよ!」
「あーボウゲツ手伝うよー」
「僕はここのヤツじゃないし手伝わないからな!」
「はい納品物、ヤクルスの大腿骨」
「アァー遂に手に入るナンて……コレがお酒に漬けルと、本当に美味しいんですよミナギリさん」
「そう」
「ツレないデスねぇ」
笑い声、怒声、飛び交う紙と物品。
騒がし過ぎるとも言えるこの空間は、正にここが巨大なギルドである事を表していた。
「あ、お客さんっスか?」
大量の書類を抱えた女性が、話しかけてくる。
「えぇ、今日は……」
「とにかく受付はアッチっスよ!……っとっとっとぉ!?」
「きゃっ!?」
「何してんだよポンコツ忍者!危ないだろ!」
やはり、大量に過ぎたのかバランスを崩した書類がメイに向かって傾いていく。
しかしメイに撒かれる直前で、大量の手袋に支えられ間一髪を得る。
「ゴメンっス!怪我は無いっスか!?」
「だ、大丈夫です、少し驚いてしまっただけで……」
「それは何よりっスけど、本当に、申し訳無かったっス」
メイは胸の前で手を抑え、必死で呼吸を整えようとしているが、あまりに突然の事だったからか落ち着くまで時間がかかりそうだ。
「やーいやーいポンコツ忍者ー!」
「ファトゥスが手伝ってくれないからじゃないっスか……後でお金はギルド長が払うから運んで欲しいっスけど」
「しっかたねぇなあ!僕がいないとダメなんだろ?手伝ってやるよ!」
「頼りになるっスねえ」
お互いに相手をニヤニヤと笑いながら、二人が去っていく。
少年の方のあの捻くれ具合、使えそうですわ。
「メイ、大丈夫だった?」
「はい……本当に、驚いただけで……」
「邪魔」
「あら……大変失礼致しました」
瓶を両手に下げ、華奢を大幅に超えて栄養失調なんじゃないだろうか?と思う程線の細い少女から場所を動くよう告げられ、慌てて数歩退く。
「受付、あっちだから」
瓶と共に差された先にはカウンターと椅子がある……番号札とかは特に見受けられないが、空いているカウンターにでも座れば良いのだろうか?
「そこ通路だからまた邪魔になるしさっさと向こう行って」
口元にだけ笑みを浮かべた不気味な表情に、ぶっきらぼうな発言。
薄ら寒い感覚を覚え、そそくさとカウンターへ向かう事にした。
「こちらへどうぞぉ?」
カウンターの物腰の落ち着いた女性に軽やかに手を振られ、そちらへ向かっていく。
椅子が二脚用意されているので、左にメイを座らせて私も椅子に座る。
カウンターの机には紙とペンが用意されていて、書いてある内容をチラリと確認する。
「この書類に記入してもらっても良いかしら?まず氏名と依頼内容だけで構わないわよ」
「いえ、今日は依頼の用件ではないのです」
無記入のまま紙を相手に向けて返すと、目を細めた嫌味に感じる笑みが帰ってきた。
胸をテーブルに乗せ、頬杖をつかれて向けられたその表情は、少しでも誤魔化そうとする私よりも邪悪な笑みだった。
「なにか、依頼以外でのお話かしらぁ?」
「……えぇ、ここのギルド長にお話がありまして」
「あらぁ?あなた達運が良いわねぇ、私ならギルド長に繋いであげられるわ」
そこそこの管理職なのだろうか?と思いその豊満な胸の名札を見ると、特別森林地区支部長、白浜輪音と書かれていた。
……そんな役職の者が、何故受付業務なんかをしているのだろうか?
「たまたまよ?」
思わず言葉にしてしまっていたらしく、慌てて誤魔化す。
「あ、あら、私口に出していましたかしら?うふふ……」
「では呼んでくるわね」
ロングスカートを揺らさない器用な歩き方で相手が立ち去ったのを確認し、深くため息を吐く。
「……ふぅ」
「お姉様、急にどうしたんですか……?」
「まさか、思わず喋っていただなんて……」
「……お姉様、別に何もお話していませんでしたよ……?」
怪訝な表情を向けるメイに対し顔が強張る。
まさか、心を読むなんて……無いですわよね?