C45話

Last-modified: Fri, 24 Jun 2022 21:59:06 JST (694d)
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ドアベルが鳴り、客の顔を見て目を見開く。

姉貴の方を見ると、軽く頷いた姉貴が向かう。

たまたま手が空いていたらしい。

その客1人では重たいであろうドアを開けてやり、店内へ迎え入れる。

相手の身長に合わせて屈んで接客する姉貴。

 

「あ、あの、ここが、C4……ってお店で、合ってますか?」

「いらっしゃいませ……そう、ここがカフェバーC4だよ」

「よかった……合ってた」

「合ってたなら良かったよ」

「はい!私、ス……じゃなくて、風花って言います!」

「そう、風花ちゃんって言うんだね……緊張しなくて大丈夫だよ❤」

 

そりゃ緊張するだろうな。

ここは今の時間はバー、いわゆる大人の店だ。

いくらまだ日が落ち切っていないとはいえ、どう見ても小学生にしか見えない客は対象じゃない。

料理の様子を見つつ、話に耳を傾ける。

 

「今日は1人かな?」

「は、はい……あ、でも、後でトゥヴァンさんが来ます!」

「鳥羽さんが後で来るんだね、今はカウンター……テーブルじゃないんだけど、大丈夫かな?」

「大丈夫です!」

「そしたらこちらへどうぞ……ちょっと椅子が高いけど、大丈夫かな?」

「はい、高いのはこわくないです!」

 

カウンターへ案内した後、姉貴を呼ぶ。

相手に聞こえないよう、小声で話す。

 

「おい姉貴、大丈夫なのかよ?」

「大丈夫だよ、あとで大人の方も来るみたいだし」

「それは聞こえてたけどよ」

「それに、カウンターに座ってもらった方が目をかけやすくて安全でしょ?」

「……まあ、それはそうだな」

「ユウヒはいつも通りでいいから」

「いつも通りって言ったって」

「アサヒさーん、ビールもう一杯!」

「はーい、今向かうよハニー❤️」

 

客からの呼び声に応じながら調理場から去っていく姉貴。

あのガキが言ってるだけで、保護者が来なかったらどうすんだよ……。

とは言っても、迎え入れちまったもんは仕方ねえ。

他の客に絡まれたりの可能性を考えても、合理的な判断ではあるしな。

頭を切り替えていくしかねえな。

 

「よいしょ、よいしょ……っと」

 

一生懸命に椅子に登っていくガキを見ながら調理ってどんな状況だよこれ。

カウンターに座って飲み物ひとつ無いのも悪いが何なら飲むんだ?

 

「飲み物はオレンジジュースでいいか?」

「は、はい!ありがとうございます!」

「金は持ってるか?」

「師匠からのおこづかいがあるので、大丈夫だと思います!」

「師匠?」

「はい!」

 

どっかの芸能の世界にでも居るのか?

まぁたかがガキの小遣い……大した物は出せそうにないな。

俺の考えを余所に、隣の席へ挨拶をする。

 

「こっ、こんにちは!私、風花です、お隣、失礼します!」

「こんにちは」

「ピッ……」

 

笑顔で挨拶を返すシュンさんに、奇声を小さく上げる風花。

ああ……怖いよな、わかる。

俺も人相が良い方ではないが、シュンさんはかなり強面だ。

緊張気味のぎこちない笑顔なら、尚更怖いだろう。

 

「こ、怖いよぉ……」

 

いやコッチ見て小声で助けを求めてくんなよ。

悪い人どころか良い人だから、その人。

むしろもう一度見てみろよ、その対応にショック受けてるぞ。

 

「あ、怖がらせてごめんねー」

「い、いえ、怖くは……」

 

お互いに硬直している2人の間に割って入るようにハルさんが助太刀する。

 

「お詫びに好きなもの奢ってあげるよ、お腹とかすいてる?」

「え、でも、知らない人からそういうのしてもらっちゃダメ、って師匠が……」

「お師匠さんいるの?えらいね、いくつ?」

「は、8才です」

「8才!?8才児怖がらせちゃダメだよシュン!」

「そう言われても……」

 

なんとかハルさんのお陰で緊張も解れたらしい。

あの2人なら、最悪店内が忙しくなっても見てもらう事も出来るだろう。

どうせ2人に対する最初の対応の時点で姉貴の行動なんて決まってやがる。

なら、その位は手伝って貰っても悪かねえだろ。

頭の中で算盤を弾きつつ、オレンジジュースを風花に差し出した。