C444話

Last-modified: Sat, 23 Jul 2022 01:37:34 JST (666d)
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「おマたせイタしましたー」

 

まず出されたのは、姉貴のビスクカレーだ。

赤味を帯びたルーの上に、海老が四尾も入っている。

確かメニュー表で見た値段からすると……原価率大丈夫なのか?

……いやいや、他所の店のそういう事を考えるのは良くないな。

くだらねえ事を考えるのをやめると、すぐに俺の前に置かれるチキンカツカレー。

鶏胸肉が一枚分のボリューミーなチキンカツが、香りが良く立ったカレーの上に乗っている。

 

「本当に大きいね……私なら食べ切れないかも」

「これは……随分と食い甲斐がありそうだな」

「ラッシーもどうぞー、オイしくメし上がれ」

 

手作りのラッシーは、あえて飲みやすいサラサラのタイプのようだ。

姉貴の方はグァバのピンク色がよく映えている。

 

「いただきます」

 

二人で同時に手と声を合わせ、スプーンを手に取る。

まずルーとライスの境界線を一口。

一気に鼻を抜ける香りと、舌に残る辛さが暑さを吹き飛ばす。

辛過ぎたか?と思うも、チキンカツと合わせて食べると油脂が混ざり合ってトゲが無くなる。

これは……やっぱり辛口にして正解だったな!

食べ進めていくうちにじわじわと出てくる汗は、ここに来るまでの汗とは違って不快にはならなかった。

 

「……あー、ごちそうさん」
「ご馳走様」

 

二人してあっという間に完食してしまい、カレーで発生した熱をラッシーで冷ます。

サッパリながらも後引く味わいがあり、まるでデザートも食べたかのような満足感に襲われる。

 

「……停電、直ってるかなぁ」

「あー……そうだったな」

 

一応、涼むという体で来た事を思い出す。

この暑い中帰って、またあの室内には戻りたくない。

だからって帰らねえ訳にもいかねえし。

ラッシー、一気に飲み干すんじゃなくて姉貴みてえにゆっくり飲めば良かったな……。

 

「テイデン、とてもタイヘンだねー」

「直るまで……いや、直ってからもずっとここにいようかな❤️」

「あらウレしい、マイドありー」

「抜け目無えな」

「テイデン、オわったかシラべてあげようか?ちょっとだけマっててねー……トウキクーン、トウキクーン!」

 

そう大声でテーブルを拭く店員に声を掛けると、こちらに振り向いてきたのは俺も知る客の一人だった。

ここでバイトしてたのか。

 

「はい?」

「ケイタイ、できルー?」

「少しなら出来ますけど……」

「このおキャクさんがね、テイデンがナオったかシりたいんだって」

「はぁ……って、このおふたりなら多分大丈夫ですよ……?」

「イいのイいの、ワタシがシラべてあげたいんだから」

「なら自分で調べましょうよ……」

 

そう返しつつも、スマホを素早く操作しているのが指の動きから見てとれた。

 

「あ、停電復旧してるみたいですよ」

「えっ……」

「なんで姉貴は残念そうなんだよ」

「停電したままなら、ユウヒと別行動で帰れるかなって……」

「何タクシー乗る気でいんだよ」

「ヨぶの?ヨぶの?」

「いや、呼ばないんで。呼ばなくて大丈夫です、本当に」

「そう?キにしなくてイいよ?」

「大丈夫なんで!あ、会計いいっすか?」

 

念には念を押さないと、アビアンさんは気を利かせてタクシーを呼んでしまう。

そのせいで二度ほどタクシーで帰る羽目になった事を思い出す……もうそんな事はさせたりしねえからな!

テーブルで会計を済ませ、釣り銭をバイトのトウキさんから受け取り立ち上がる。

 

「ほら姉貴、帰るぞ」

「タクシー……」

 

まだ未練がましくごねて立ち上がろうとしない。

やはり一緒に来て正解だったな、タクシーなんて絶対呼ばせねえ。

 

「置いてくぞ」

「え、本当?なら」

「なら、じゃねえ……よっ!ほら立て!」

 

置いていかれるならタクシーを呼べる!とでも思ったのか、若干喜んでいる姉貴。

そんな事にさせないためにも、無理矢理腕を引っ張り椅子から引き摺り降ろして立ち上がらせる。

 

「……そうだユウヒ、提案があるんだけど」

 

こういう時の姉貴に対して良い予感がした事はなく、悪い予感しかしねえが一応聞いてやる事にした。