C42話
freeze
ランチタイムも終了し、今は営業中に放置していた食器洗いと夜への仕込み時間だ。
俺が洗っている最中、椅子に座り、目の前にあるミニテーブルに突っ伏してる姉貴。
手伝う気は更々ない様子で、こちらに顔を向けてはいるものの、目がやる気が無いと訴えている。
姉貴への怒りを叫びつつ、食器は欠けたりしないように丁寧に洗っていく。
ここには当然食洗機は有るが、軽く予洗いする事で洗い残しを無くす。
もちろん食器もだが、何度も洗う為の水や洗剤も無料じゃない。立派な商品のひとつだ。
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「だーかーらー!いっっつも俺言ってんだろ?客には順番に頼ませろって!!」
「順番にとろうとは思うんだけど、ついハニー達の事を考えるとね……」
「俺は一人しか居ねえんだっつーの!それともなにか!?俺は超人か何かか!?」
「そうじゃない?」
「そしたら姉貴も超人だぞ」
「そんな訳ないでしょ」
「俺だけ超人な訳ねえだろ」
「それもそうか……あー、お腹空いてきたけど作るの面倒臭い……宅配頼んでいい?」
「姉貴、今から作る!作るから待ってくれ!」
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とりあえず洗ってる食器を放って姉貴の飯を作る事にした。
……うーん、確かピラフが余ってるんだよな……。それに卵でも乗せればいいか。
ちゃちゃっと作り上げて姉貴の前に置こうとして……姉貴が邪魔でテーブルに置けねえ事に気がつく。
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「ほら姉貴、飯作ったからどけよ」
「あー、ありがと」
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そう言ってテーブルからゆるゆると身体を起こす姉貴。
いや早くどけよ。熱いんだよ、皿。
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「あー、食べるの面倒くさい……」
「作らせておいてそれはねえだろ!それに、食わねえと閉店まで絶対もたねえぞ?」
「そう言われると仕方ないね。ハニー達の為にも、食べるかぁ……」
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スプーンでオムレツとピラフを溜息まじりに掬い上げ、唇が汚れないギリギリのラインまでしか口を開けずに食べる姿。
営業中あそこまで愛想を振りまいているとはとても思えねえ。
ここまで面倒くさそうに食事を摂る人間が居るのか?目の前に居たわ。
つい自問自答してしまった。
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「はー、やっと食べ終わった……ご馳走さま」
「洗ってやるから食器くらいコッチに持って来いよ」
「え、めんどくさ……今日はちょっと疲れてるし、一回寝るわ」
「ここも掃除すんだから部屋行って寝ろよ?」
「えー……」
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姉貴が自分の部屋に行くのを嫌がるのにも訳がある。
部屋の中に客から貰ったもんをボコボコ適当につっこんだ結果、足の踏み場がねえからだ。
一応、貰った物は一度使いはする。だが、その一度っきりで後は部屋に放置だ。
そこから適当に持っていって俺が勝手に使いまくっているが、姉貴は気にしていない。
姉貴の部屋の掃除をたまにしてる特権として、そのくらいは良いだろ?
その結果、俺の肌と髪が異常に綺麗になってきている。
俺よりも綺麗だ、と言われている姉貴は何もしてねえけど。
はー、俺が適当に使っても効果が出るような高いもん貰っておいて、一度しか使わないとかマジ勿体ねえ。
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「俺の邪魔になる度移動する方が面倒くせえぞ」
「あー、確かにその方が面倒だ……時間になったら起こして」
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そう俺に告げて自室へ向かっていった姉貴。
向かっただけで、実際は部屋まで行くのを面倒くさがって廊下で寝てそうだが。
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「うおっ!?」
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ふと視線を向けると、ランチの営業中に愚痴を聞いていた奴が席に座っていた。
思わず目を見開いて驚きの声を上げるが、相手は気にしていないようだった。
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「気にしないで続けて」
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その声を聞くと、まあ、別に迷惑かけてこなけりゃいいか……と思えてきた。
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「いつも思うけどよ、姉貴は仕事の時と違いすぎだよな……」
「そう」
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そう、そうと言えば!あの、余りにもだらしねえ姿見たか?
あれこそが、姉貴の真の姿だ。
食事は先程の通りだったが、それだけじゃ終わりやしねえ。
風呂も面倒だからとエステで何とかしようとする上、部屋の掃除も面倒だからってホテルに泊まろうとするんだぜ?マジでふざけんな!
後はほかにだなあ!
姉貴への愚痴をぶつぶつと呟きながらだと、随分と作業が捗った。