突然の落雷に蓮葉

Last-modified: Sat, 05 Sep 2020 01:02:50 JST (1352d)
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「そろそろ目が覚める頃の筈なんだケロねぇ……」

 
 

見知らぬ声が聞こえ、慌てて飛び起きるとまたどこか違う場所へ飛ばされたようだった。

 
 

「あ、目が覚めた?ココまで運んでくるの中々大変だったんだよぉ」

 

「……ッ」

 
 

相手は……あまり人間には見えない。

 

カエルのコスプレ……という線も無くはないが、そもそもあの状況で人間は介入出来ないんだから人間以外の何かなんだろう。

 

それに、私をここまで運んだというなら、相手のテリトリーの可能性が高い。

 

急いで後退し距離を取るが、足がもつれて転びそうになる。

 
 

「あー!あんまり跳ねると葉っぱが沈んじゃうケロよ!」

 
 

指摘されて初めて足元を見ると、巨大な蓮の葉の上に立っていた。

 

瞼を閉じて一度だけ深呼吸し、ゆっくりと視界を広げる。

 

一面蓮の葉や花で覆われているという事は、水場なのだろうか?

 
 

「ここは一体……そもそも貴方は誰なんです?」

 

「僕はケイロだケロよ!」

 

「……素敵なお名前ですね」

 
 

馬鹿にされているのか、悪魔に名前を知られるのを警戒しているのか。

 

どちらにしろ、名乗った名は信用に値しないだろう。

 
 

「ケロちゃんの事、信用して欲しいんだけどお……」

 
 

警戒されている自覚はあるらしい。

 

顔の上半分を動かさずに笑顔を作り、相手に向ける。

 
 

「信用しておりますわ、何者なのかも存じ上げませんが」

 

「なら教えてあげるけど、僕はカエルの神様なんだケロよ!」

 
 

胸を張り、腰に両手を当てて偉ぶったそのポーズで神だと思えは無理があるようにしか見えない。

 
 

「なんだあ厳しい顔してるケロ、何か嫌な思い出でもあるの?」

 
 

既に私が悪魔を使役していた事は知っている筈だ。

 

悲しげな表情の中に諦めを混ぜ、相手の同情心を誘う事にする。

 
 

「……ええ、妹を天使に召し上げられましたの」

 

「という事は……!」

 

「お察しの通りですわ」

 

「なぁんてヒドイ話なんだケロ!それはかわいそうだケロ、ケロケロケロ……」

 
 

ケロケロ、と変な泣き声なのか鳴き声なのかわからない声を上げながら涙を零している。

 

いつの間にか蓮の葉に乗っていた蛙達も鳴き出し、騒音と化す。

 
 

「なら、亡くなった妹さんのために頑張ってるんだケロねぇ」

 

「死んでないわよ」

 

「えっ!!!」

 
 

……そこまで驚かれても困る。

 

と言うよりも、想像とはいえメイを勝手に殺さないで欲しい。

 
 

「じゃあなんであんな大掛かりな事してたケロ?僕が庇ってあげないと死ぬところだったケロよ」

 

「庇う……?」

 

「雷なんて撃たれたら人間は死んじゃうでしょ?」

 
 

……にわかには信じがたいが、私と家に目掛けて雷が落ちたのは紛れもない事実だ。

 

あの天気からしても、意図的な落雷と言われた方が説明はつく。

 
 

「多分誰かが怒っちゃったケロねぇ……もしくは、警告とかだと思うよぉ」

 

「……」

 

「世界改変なんてやろうとしたら、管理してる側から困るケロからね!」

 
 

腕を組んで首を上下に動かしている相手に対し、一番気になっている質問をぶつける。

 
 

「ならば、私の術式は失敗したと……?」

 

「勝手に失敗させないで欲しいケロねぇ、ケロちゃんが頑張って成功させてあげておいたケロよ!」

 

「どういう事です?最初から説明して頂きたいのですが」

 

「では説明するケロよぉ!ケロケロ、カモーン!」

 
 

意味のわからない呼びかけに応えて蛙達が集まり、ドンドンと積み重なって山を形成していく。

 

私の倍以上の高さにまで山は大きくなり、ぐらりと大きく揺れて崩れると……何も出てこない。

 
 

「あれぇ?、ちゃんと出てくるはずだったんだケロ……」

 
 

一体今の時間は何だったのか。

 

……考えるだけ無駄だろう。

 

 

「まず、君達が家に着いた時に僕の使いがコッソリ着いてきてた事は気が付いてたかケロ?」

 

「……いえ、生憎と」

 

「ちゃんと周りは確認しておいた方がいいケロよ?危ないからねぇ」

 
 

着いてくる方に問題が有るとしか思えないけれど、とりあえずそこは無視しておこう。

 

下手にはぐらかされて話が進まないよりはマシだ。

 
 

「で、悪魔に使役してる……名前、聞いてなかったケロね」

 

「……堂々、聖ですわ」

 

「セイ……なるほどぉ、自分の名前を媒介に術式構成をさせたんだケロねぇ」

 
 

私の名前のセイは棲、成に通じる音だ。

 

そして正義の字を持ったマサヨシ君を足掛かりとして構成した術式を構築した。

 

悪魔に術式を丸投げせず、ある程度の叩き台は用意してやった事が仇になったか?

 
 

「それで、雷が落ちる前に術式を僕が少し書き換えたんだよねぇ」

 

「あの規模の術式への介入?神といえど、容易に行えるとは思えないのですけれど……」

 

「僕はカエルの神様だよぉ?書きカエルなんて、その辺を飛んでるハエを食べるよりも簡単だケロね!」

 
 

私の術式の根幹に気がついたのも、そもそも自身が音に通じる神格を持っていたからという事なのだろうか。

 

それに、例えだが……朝飯前とでも言いたいのだろうか?

 

……あまり、ハエを食べる様は想像したくない。

 
 

「その後に雷が落ちてくるギリギリの所で僕の領域に連れ込んだ、って事ケロー!」

 

「……成功したのか失敗したのか、二択でお答え頂けません?」

 

「僕が書き換えてあげたんだから成功してるケロよ!世界をカエルだなんて、セイはとてもいい人間ケロねぇ!」

 
 

とても都合の良い人間だ、でも言いたいのだろう。

 

腹立たしい。

 
 

「お褒めの言葉は要りませんわ。それに、私そろそろお暇させて頂きたいのですけれど」

 
 

感情とは真逆の笑顔を無理矢理作り、本音を告げる。

 

私は神を憎んでいる。

 

特に憎いのは、メイを自身の小間使いにしたいというだけの理由で天使などというふざけた存在にした声も姿も未だに見せぬ卑怯な神だ。

 

そんな私にとって、神から使い勝手が良いと褒められるのはただの侮辱にしか感じられない。

 
 

「なら返してあげないとねぇ、僕は帰宅安全の神でもあるんだよぉ?」

 

「そうですわ……ねぇっ!?」

 
 

蓮の葉が突然水に沈み、慌てて他の葉に飛び移ろうとするが間に合わない。

 

巨大な蓮の葉に包まれ、水こそ入ってこないが言いようの無い恐怖が迫ってくる。

 
 

「安心してケロ、またどこかの水たまりで会おうケロー!」

 
 

遥か上の方から聞こえてくる声に、心の中で返事をする。

 

二度と会うか、人間を下に見てるクソ神が。

 
 
 

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