人間と人間のギルドでの出会い

Last-modified: Sat, 18 May 2019 02:01:36 JST (1828d)
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いきなり来た客人は、扉を開けて唐突に叫びだした。

 

「押忍!!!」

 

まさか、この頭がおかしいとしか思えない忍者の様な女が、仕事仲間になるなんて思わなかった。


「ミナギリさんにも説明しておくわね、今日から入ったボウゲツさんよ」

 

「押忍!忍者のボウゲツっス!よろしくっス!」

 

白浜の隣で叫ぶこの女が新人だなんて。

 

私の苦手なタイプの人間で、つい眉間に皺が寄る。

 

「私はミナギリ……よろしく」

 

「元気無いっスね、この人」

 

「人を指さしたらダメよ?」

 

白浜、そうじゃない。

 

去ってゆく背中を見ながら、言葉を飲み込んだ。


今は目の前のこの女だ。

 

質問をインチキ忍者……ボウゲツにぶつける。

 

「何ができるの」

 

「一応忍術とか出来るっスよ?見たいっスか?」

 

見せたくてたまらないのだろう、あからさまにソワソワしている。

 

まぁ、見て損が有るわけでもないだろう。

 

……本音を言えば、私も本物の忍者にワクワクしていた。


「忍法、胡蝶の舞の術!」

 

そう言うと扇子と紙を取り出してきた。

 

「今から蝶を作るっスよー」

 

紙を千切り蝶を作り出すと、目の前で扇子をはためかせる。

 

紙で出来たはずの蝶は、まるで生きているかのように動き出す。

 

確かに凄いと言えば凄い、けど。

 

「……これだけなの」

 

「セッカチっスねぇ」

 

もう一匹蝶を作り出し、まるでつがいの様に飛び回る二匹。

 

「これからっスよ!」

 

勢いよく扇子を一度煽ぐと、蝶は紙吹雪となって散った。

 

……凄いけど、確かに凄いけど。

 

思っていた忍術と全然違う。

 

床、ゴミだらけだし。


「こう、分身とか……しないの」

 

「いやだなぁ、出来る訳無いっスよあんなの!」

 

右手を振って主張する阿保面にナイフを突きつける。

 

あと数ミリ押し込めば、鼻に一文字が書かれる距離。

 

笑顔を張り付けたまま後ずさりした似非忍者に、このギルドの現実を告げる。

 

「……役立たずには、役立たずなりの仕事しか来ないから」

 

「いやいやぁ、私忍者っスよ?なんか隠密とか来ると思うっスけどねー」

 

自分の実力も図れないレベルか。

 

相手にするのも馬鹿馬鹿しくなってきた。


「……そう」

 

ナイフをホルダーへとしまい、今日の仕事を確認する為告知ボードへ向かう。

 

「いやー先輩にいきなり認められちゃうとか先は明るいっスね」

 

くだらない戯言はギルド長の様に無視し、頭を仕事に切り替えた。